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恩知らずの夏が
またやって来る
何も返せない夏が
またやって来る
あなたは
あらゆる夏の中にいる
せり上がる入道雲に乗って
吹き上げる噴水の飛沫に紛れて
すすり上げた素麺のつゆに浮かんで
雨上がりのアスファルトの上で小躍りして
あなたは
あらゆる夏の中から
わたしを眺めている
ひたすら汗を流すだけで
ひたすら戯言を垂れ流すだけで
何ひとつ返せないわたしを
透き通ったあなたは
ただ眺めている
恩知らずの夏が
またやって来る
何も返せない夏が
またやって来る
噛み砕いた想い出を
ほろ苦い酒で何処かに流し込んでは
もう うんざりだよ と
眉間にしわを寄せたところで
わたしは決して
夏を嫌いにならないだろう
コメント
「あらゆる夏の中にいる」がいいな。夏に亡くなっちゃった人だろうか。亡くなっちゃった人には恩を返せない。
夏はいろいろな想い出が押し寄せてくるので
交通整理の一環として
毎年同じようなテーマで詩を書いています(笑)
さすがとしか言いようがありません。
毎回鳥肌が立つほどに1節1節が巧みなんですね。
「せり上がる入道雲に乗って」からの畳みかけ、めちゃくちゃ気持ちいいですね。
「ひたすら汗を流すだけで」からの集約していく流れも素敵です。
そして
「恩知らずの夏が またやって来る、何も返せない夏が またやって来る」
ここがとても深いなーと感じました。
子供だった夏の頃、笑いかけてくれた人たちのやさしさがいくつも思い出されて、胸が熱くなりました。
@ザイチ さん
>コメントありがとうございます
もともと私は義理堅いほうではないので
いろいろなところで不義理をしてしまって
そのうちそのうちと思っているうちに
お相手がいなくなっていることが多々あります。
それでも最近はきちっと気持ちをお返しするようになってきました。
ようやく大人になったようです(笑)