京都
東山の古い京町家
白髪の老貴婦人
「伊織はんの干菓子やさかい美味しおすえ」
後ろを向いて床を見る
「黙雷さんの軸ですか」
私は言いながら
干菓子を口に入れた
優しい甘さが広がる
「お爺さんのお気に入りどした」
もう一度軸を拝見してから
一礼しお茶を頂く
「楽ですね」
茶碗を見て言う
婦人は笑い乍ら
「楽言うてもピンキリおす」
歴史の重なる京町家
「古いだけの家でかんにんどす」
「代々このお家ですか」
と尋ねると
「うちは戦後やさかい新しおす」
婦人の優しい口調に
思わず私も
「ではご主人と若い頃にこちらに」
婦人はお転婆娘になると
「応仁の乱の後てことやさかい」
再び貴婦人に戻って
「うちも伊織はんと同じで四百年くらいどす」
私は深々と頭を下げた
東山の古い京町家
白髪の老貴婦人
「鯖寿司でも食べて帰りよし」
腕時計を見た
微風とともに
針は動きだす
コメント
京都ってほんとに応仁の乱の前か後かみたいな話がリアルにあると聞いたことがあります。「先の戦で焼けましたさかいに」みたいな。歴史、時間とはすごいものですね。四百年と腕時計が呼応するような最後が素敵です。