貝がら

 きざみ大葉と梅塩昆布で
 お茶漬けをした
 晩に

 左手の小指からベースコートを塗りながら
 女は思った

  「やっぱり、お互いに体温を知り合わなきゃ。」

  「そうさ。」

 二人が そう呟いたのは
 もうずっと むかしの事なのだ

 壁掛け時計は午前零時四十一分
 扇風機まわる音
 静か 居間に溶けこみ
 つかの間 よみがえる親しかった男の顔

 一度 乾かした爪に
 又一度
 愛らしく光る薬品をのせる

 両の手の指先は
 まるで渚を洗う白い波にうち上げられて
 砂に 埋まった
 さくら貝

 海の音をきく瞳で、湿った記憶も埋めてしまった

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 両の手の指先は
    まるで渚を洗う白い波にうち上げられて
    砂に 埋まった
    さくら貝

    海の音をきく瞳で、湿った記憶も埋めてしまった

    詩本文全体が情緒豊かですてきです。
    最後の方、詩のいい空気感が出ています。

  2. @こしごえ
        様へ

     お寄せくださいますメッセージのお言葉を、いつも嬉しくて
    笑顔で、読ませていただいております。(*´∇`*) 本当に、どうも
    ありがとうございます!
     詩の空気感…。こしごえ様に読み取っていただけまして、なるほど…
    と感じました。自分では、気付いていませんでした。
     私はいつも、二百字詰め原稿用紙に縦書きで、叩き台の原稿を仕上げます。
    だから脳が、本来詩を縦書きで書く仕組みになっているのだと思うのです。
    連分けしながら、筆先にリズムをつかめる時の感触が、とても好きなのです。
    だから、時々…わがままな事を思うのです。詩人会にも、縦書きで投稿出来る
    システムがあれば、凄い嬉しいなぁ!なんて。
     つい勝手なお喋りをしてしまいまして、申し訳ございません!(⌒-⌒; )ゞ汗

     

  3. 体温を知り合うっていうのは
    今までに思いつかなかった表現でした
    その両手がまた違う形で海岸でひかる

  4. @那津na2
       様へ

     お読みくださって、どうもありがとうございます!(*^^*)
     お寄せいただきました、ご感想のメッセージに、自分でも
    気付かなかった深淵に触れさせてもらった様な気がします。
     那津na2 様のコメントは、いつも語られます言葉そのものが詩に、
    なつているので…。心に深く響いてきます。(^^)

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