金魚玉

 「どうしたのさ?それ。」

 厨の上部の隅
 かけてあった梯子を床から上げる
 おゆうの さぐり目が
 三畳間の小窓
 竹表皮も渋くなった簾の軒へ注がれて

 「弱っているからって、お嬢様がくださったのよ。」
 それきり はにかみ黙る飯炊きおりん

 「そおなの…。その鉢は、どうしたのさ?」
 「金魚、陶器鉢へ移したから。手代の清助さんが一つくれたのよ。」
 「ふう…ん。清助さんがねえ。」

  ようよう十二になる おりんの髷へ顔向けていた
  小さな和金、
  吊るされるビイドロの小鉢で
  身ひるがえし

 それ以上 なにも聞かず
 僅かに眉ひそめる鼻声の彼女 を
 古畳、床下から突き上げる
 おきねさんの いつも忙しない剣のある声が呼ぶのだ

 「あたし、また何かやらかしたかね?」

 薄ら明るい笑み交わすふたり
 「一緒に降りるわ。」

 八ツ時まだ陽高く 近江屋の縁側で庭師の枝切り鋏が鳴っている。

投稿者

滋賀県

コメント

  1.  初めての時代劇版を、ただ書いてみたかった…というだけの大変拙い原稿で
    申し訳ございません。m(_ _)m
    「金魚玉」というタイトルだけが、先にありまして。そのイメージに、以前
    読んだ事のあった時代劇短編小説が浮かび被せて書いてみました。

  2. コメント失礼いたします。
    哀愁、そんなことが浮かびました。近松物語など時代劇?の人情とか恋慕とか、ふとそういう雰囲気を味わえました。

  3. @ぺけねこ
    様へ

     お読みいただきまして、ご感想のコメントをお寄せくださり
    どうもありがとうございます!^ ^
     江戸時代後期、上見(うわみ=上から見る為に作られる金魚)の
    ランチュウなどは高価でしたが。武士の副業で生産させる様になった
    金魚は、町人の間でブームになり。金魚売りから金魚玉(今で言う、
    水の入った金魚を持ち帰るビニール袋)と一緒に買い求めたようです。
    竹棒でつっかえて軒に吊るす観賞用の硝子鉢は、浮世絵にも描かれる
    風情がありました。当時、豪商屋敷の奉公人で幼い少女の目にも金魚は
    眩しかったのかもしれないな…などと想像してみました。
     お嬢様から頂いたのか?本当のところ分からない和金を手代の清助
    さんが、おりんへくれた。金魚玉で翻る小さな朱色は、おそらく長く
    生きないだろう。それを大切に見詰める、おりんの危なく儚い…稚い
    恋慕をイメージしてみました。
     時代小説の雰囲気を味わっていただけて、良かったと思いました。
    とても嬉しかったです。

     

  4. @リリー
    リリーさん、解説でこの作品も生きたように感じました。
    (*´∀`)♪

  5. @レタス
       様へ

     コメントを、お寄せくださいまして嬉しいです!(*^^*)どうもありがとうございます。♪
     続編の構想を、いろいろと練ってみたのですが。詩で、ストーリーを繋げるというのは、難しいですね。(ーー;)ゞ
     古典落語や小話を読んで、どうやってオチを一編の中に落とし込もうかと試行錯誤した
    のです、けれども…。自分の創作力に、持久力の無さを実感致しました。m(_ _)m
     コメントをくださいました、ぺけねこ様へ返信しました時は、まだ続きを書けるかも
    しれない!と感じていた為、ちょっと…余計な解説を入れてしまいました。^^;汗

  6. @リリー
    いいえ、この作品を短文の中に描こうとしても、なかなか困難だと思いました。
    短編小説くらいでなければ表現することは難しいと推察します。でもこの作品が私のどこかに引っ掛かっていたのです。前後の中に続きがあるような気がします。
    ともかく、良くできた作品ですね (^^)

  7. @レタス
       様へ

     お褒めいただきまして、どうもありがとうございます!嬉しいです♪
     「金魚玉」の続編に[イワシ]という原稿を考えまして。

      「どう、あんたも。お茶入れて来たわよ。」  
     女中部屋の粗末な座卓に不似合いな
     黒砂糖饅頭が 五つも

     「どうしたの!コレっ。」
     目を丸くする おりんへ
     急須片手に自慢げな笑みを讃える
     甘いものに目がない おゆう

      昼間さ、おきぬさんに呼ばれて番頭さんの前で叱られてきたから。
      そのお礼よ。 
     
     「どういう事?」

     
     で、始まっていく「イワシ」という名前の、近江屋のある一帯でひっそり
    商いを営む小間物屋の茂六さんの飼い猫が、登場してくる展開なのです。

     女中頭「おきぬのひみつ」といった内容で、人情ほんわか物語でオチへ
    持っていこうとしたのですが、長くなりすぎまして。(^^;;
     上手くいきませんでした〜。

  8. @リリー
    イワシとは良いモチーフですね(^^
     
    これもまた短文では困難になると推察されるので、
    いっそのこと長文でやってみたらどうでしょう?
    リリーさんの金魚玉のような筆致だとスルスルと読めると思います。

  9. @リリー
    ちなみに詩板で何時もトップを貼っている方は
    相当長い作品を過去に書いていました。
    その作品は一か月分の日記を載せていたのです。
    ただ小説だと他に板があるので問題在りかもしれません。

    楽しみにしております。(^^

  10. @リリー
    リリーさん、誤字がありました。トップを貼る、ではなく張るでしたm(__)m

  11. @レタス
        さまへ

     コメントをいただきまして、どうもありがとうございます!m(_ _)m
     続編の叩き台が、原稿用紙6枚を超え…。もう、これは詩ではなくなってしまいましたぁ。( ; ; )泣
     文体は詩?の…ような連立ての構成なのですが。散文詩へ切りかえてみようかとも
     思ったのですが…。最初の、私が「金魚玉」の作品を手掛けました時に抱きました
     イメージが、微妙に変わってしまう。これは、詩では収まり切らない、短編小説
     にも成りきれていない曖昧な愚作!!(T . T)涙 の原稿だと、握り潰しました。
     「ものを書く」行為と、その熱量というのは、あらためて凄いものである事を
     実感致しました。m(_ _)m

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