ねばぁらんどがあった場所
12時になるちょっと前
言うことを聞かないゆめちゃんのことを思い出してはイラつきながら
せっせとご飯の支度をする
あの子はとっても聞き分けない子
私の言うことをちっとも聞いてくれないの
いつもイヤイヤ言って駄々をこねる
今日だって幼稚園に行きたくないって
キイキイ泣いて怒っていた
無理矢理抱っこして立たせてもダメ
すぐ座り込んで地団駄を踏む
バスになんて乗れるわけがない
だから私が後で送って行った
何であんなに駄々をこねるの?
何がそんなに気に入らないの?
考えたってどうにもならない
イライラが溜まって頭が痛い
やっと支度が終わったとこで
食卓について箸を取る
作り置きのおかずの隅に
置いてあった納豆のパック
卵と醤油を入れてから
程よいとこまでかき混ぜていく
ご飯にかけて一気に掻き込む
懐かしい感覚だ
子供の頃は納豆が大好きだった
毎日一個は当たり前
それでももっと食べたいからと
母さんににもう一個ねだってた
それでも食べたいからと言って
冷蔵庫から勝手に出せば
「食べ過ぎよ!」と母さんに叱られた
ゆめちゃんも納豆が好きで毎日食べる
そこは多分私の遺伝だろう
子供の頃の思い出は
なんとなくだが覚えている
好きなことは好きと言って
嫌なことは嫌とはっきり言った
食べたいと思えば好きなだけ食べ
遊びたいと思えば気が済むまで遊んだ
勉強が大嫌いで
習い事にもやる気が無かった
大人の言う事なんてまるで聞かないで
本能のままに生きていた
口に入る納豆の味が
糸を引いては絡みつく
茶碗や口の中に残った
ねばねばした感触が
しつこくまとわりついてくる
水を含んでも、それでも残る
朝、ゆめちゃんが駄々をこねながら
「離れたくない」と言わんばかりに
私が小さい頃にもそんな時期が
しょっちゅう続いていたっけか
3歳の頃だった。
公園で遊んでいたら、
母さんが「帰るよ」と声を掛ける
私はまだ遊びたくって
ヤダヤダ言って駄々をこね
何時間も泣き叫んだ
幼稚園の頃だって
プール遊びが大好きで
「あがらない!」と怒っていたな
先生に付き添ってもらっては
ずっと泳いでいたっけか
小学生の時だって
おじいちゃんちに遊びに行って
帰る日にはヤダヤダ言って泣いていた
おじいちゃんとお別れするのが
とにかく寂しかったから
他のおかずを口に入れても
それでも残るこのねばつき
お菓子で釣っても釣れないあの子
私だって釣れなかった
子供の頃は気にしなかったが、
大人になればイラッときてしまう
いつしか子供のわがままを許せなくなっていた
嫌な人間になったものだな、全く
空っぽになった茶碗に
またご飯をよそって
冷蔵庫からもう一つ納豆を取り出す
かき混ぜてからご飯にかけて
今度はゆっくり口に運ぶ
ねばつく感触は嫌だけど
改めて味わってみると
やっぱり美味しいものだった
あぁ、私にもこんな時期があったんだ
納豆が大好きで
楽しいことが大好きで
それをいつまでも続けていたかった
自分に素直すぎる子供の頃の私のように
ゆめちゃんだって同じ気持ちだったんだ
納豆を食べる度、残る味とねばつきが
それをいつも思い出させてくれた
コメント