偶成する日々
「夜道」
電信柱に電灯ひとつ
暗い夜道を細々照らす
電信柱に電灯ひとつ
暗い心のよすがとなって
「掃除機」
ゴミどもの末期の声も絶える
蛇は素知らぬ顔で呑み込んでゆく
妻の帰宅までのひと時
私は蛇使いとなってしばし戯れる
「駅」
階段を急ぎ足に上る
息が荒くなる 白い吐息が弾む
放たれた窓から光が差す 青空が私を射る
今日もまた一日が始まる
「登り坂」
登り坂を上ろうとする
空を仰ぐ 白雲が垂れて何事か囁く
登り坂を駆け上がっていく
どんな風が私に問い掛けるだろうか そして何を
「段々畑」
畑中を上がる一本の小道 頂上には
高らかに大樹が揺れる 白雲は覗き込むように
垂れる 私ははやる心を抑える 俯きながら
坂を下る 現世へと帰るのだ
「静か」
都心にも乗り降りの疎らな駅
線路沿いの金網には蔦が枯れて
真昼時には人影もなく 私の影のみ路面に濃く
風が吹く まだ肌寒い初春 私は先を急ぐ 急ぐ
「夜」
目のない闇が口を開く
何の用だと問うても答えない
あっちへ行けと怒鳴っても反応しない
ただ私の方へじりとにじり寄る
「中空」
高く空は青々と澄んで
低く獣は嬉々として駆け回る
高くもなく 低くもなく 宙ぶらりんの生を
今日も私は生きねばならぬのだが
「春」
行ったことのない島
聞いたことのない村
すでに満開だとの知らせが届く
すると暗がりに私の魂がもぞもぞ動き出すのだ
「偶成」
雨降る午後は定食屋
人も疎らな三時過ぎ
カツ丼喰らう定食屋
そぼ降る町に背を向けて
「記憶」
雨は揺らし続けて静謐
風は黙しかねて見開く目
孤独は遥か黎明に目覚め
人となりてこの世の一隅を濡らす
「横断歩道」
投げられた網よ
取れる獲物とてない
青い道は谷を越え山を抜け
いつか大海原に吞まれるのだが
「廊下」
ふたりひとりと過ぎる
廊下はどこまでも伸びる 伸びてゆく
もうすれ違う人もおらず 気配すらなく
廊下はいつか私を呑み込もうと 呑み尽くそうと
「雨」
小道は木立を抜けていく
瞳を潤ませる石畳の道 立ち並ぶ木々
風吹くたびに瞬く道 涙の木の葉
私は過ぎる 私の足の裏で湿っている小道
「人生」
駅のホームに光がどっと溢れる
ホームの端に押しやられるひんやりとした影が
明るさから離れて翳る僕の人生よ
いまもこうして駅の端で息を潜めているのだが
「闇の」
闇の光が なおのこと 漏れ出している
静まりかえっていっそう明々白々と 伝えている
夜よ 夜中よ しんしんとして 我が甘美なる秘密の
内奥より開いて赤々として 点々として 流すのだ
「転風」
昨夜少女が薔薇に零した吐息
今朝風に掬われ群青の魚となって泳ぐ
放課後少年の後輪を押す歓声となり
夜は少女の窓辺を訪う雨の唄となる
※エックスに乗せた四行詩です。
ここから更に別の形へと仕上げるかもしれません。
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