記憶街
静寂さを突き詰めると時は螺旋を描く
かつてどこかで眺めた残影が渦を巻く
人の消えてしまった街をふと想像する
あるいは人で溢れ返った巷に紛れ込む
幾人もの私と中央広場で再び交差する
互いの私は違う時の狭間を生きている
私はそんな彼らをいつもじっと眺める
螺旋は次第に静けさを増し時をも突く
街の最中へひとつの妙を散らしていけ
大切なのはそこに紛れた個を騙すこと
ちいさな虚構をそこに吐露することだ
騒めく広場に入り私自身に耳を澄ます
時は夕暮れから朝へ滑らかな嘘を零す
無数の写真に巣くう濃い物語がうずく
コメント
タイトルもいいし、内容もいい感じの濃密さを感じます。時間の連なりと、それぞれの時に残存する自分という世界観が好きだなぁ。後半の転調風なスピード感もいいなぁ。
こういう詩の書き方も、あるのですね。僕も「 妙を散らす人 」でありたいです。
これは詩であり、文学だと思いました。
自分も文字数揃えがちなのですが、言葉が理性的にカチッとはまる感じが好きなんですよねえ。
すごい。とても好きなセンテンスがいくつもあり、素敵だ。
いくつもの街景といくつもの心象が作者の脳内で交差している。
行をきっちりとそろえてあるのもすごいです。
この詩を読んで、多次元宇宙を思いました。うずきます。
まわったり滑ったりしてされるがままな感覚です。
一行目から惹かれ、滑らかな嘘。かっこいいです。そんな嘘なら知ってしまいたいです。
あぶくもさん
時間の連なりと、それぞれの時間に残存する自分。そうなんです、まさにそれを書きたかったんですね。その想いが、最終的に記憶街という「街」につながっていくのかもしれません。
服部剛さん
定型的な詩を、時々ですが書きます。型の中に言葉をはめ込め、世界をぎゅっと凝縮させていく、という感じでしょうか。「妙」という言葉は、好きで、過去の作品にも使っています。
トノモトショウさん
行数と字数を予め定めてから書くと、緊張感のようなものがあります。そうなんです、言葉が理性的にカチッとはまると、快感、というかそういう気持ちになりますね。…なかなか上手くはまらないのですが。
王殺しさん
センテンスごとに味わっていただけたなら、作者として、とても嬉しいです。たしかに、心象と街景の交差をイメージしたところがあります。それを横軸にして、縦軸は、時間の流れでしょうか。
こしごえさん
少し前からですけれども、定型的な詩を書くようになりました。私の場合、詩作に煮詰まった時、定型で書くと、割とイメージがふくらんでくるようです。記憶街と表現しましたが、記憶は、こしごえさんがおっしゃるように、多次元宇宙でもあるのでしょうね。
たちばなまこと/mikaさん
時間が、螺旋状にくるくる回りながら、流れていく。書いていくうちにそういうイメージになっていきました。そうなんです、まわったり、滑ったり。個を騙す ⇒ 嘘を零す というふうにつながっていくのかな…。「嘘」に着目してくださって、嬉しいです!