Thorn
言葉に溢れていたくない
そんな気分にならないか
鮮やかに錆びた
イロハモミジを見上げる時に
言葉に託したくはない
そんな気分にならないか
夕闇せまる街角で
誰かを深く思い遣る時に
言葉に現されていたくない
そんな気分にならないか
染みだらけのカウンター
アルコールが巡りだした時に
すべてのサイバーよ
目を閉じてしまえよ
耳を削いでしまえよ
鍵をかけてしまえよ
顔もないのに誰もが
わかって欲しいのだ
言葉に縋りたくはない
そんな気分にならないか
筆跡もないその文字が
大仰に慰めようとする時に
言葉を作りたくない
そんな気分にならないか
パズルを組み立てて
目を逸らしていると感じてしまった時に
言葉などでは
本当を表しはしないから
匿名が居心地いいんだろう
匿名こそいまの詩人の姿さ
言葉などでは
暴かれることもないから
泣いていると歌うのだろう
自分語りをされても、しても
そこに自分なんておりゃしない
みな匿名と言う虚構の湖に
すっかり気持ちよく浮かんでいる
便利な詩か
濡れた唇の吐息の方が
言葉よりも信じられる
何も言わない唇のほうが
とても詩的だ
コメント
田村隆一さんの『帰途』という詩の中に、「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」というのがあってそれを思い出した。また昔、POISONというバンドがEVERY ROSE HAS ITS THORNと言う曲をやってたなというのと。この詩には毒も棘もあるように感じますが、詩人の仕事は「筆舌に尽くし難い」現実や空想を目の前に、それでも「尽くす」ことなのかと自問もしてしまいますね。
あぶくもさん
ポイズン。また懐かしくもう何年も思いだしもしなかった名前を。なかなかド派手な毒でした。
あぶくもさんに薔薇に例えられて光栄です。照れるなあ。
スナックのママ的なことだね。
きっきさん
そうだなあ、高倉健的なことかもな。
違う気もする。
まあ、オレはそんな気分になることはないかな。でも濡れた唇ほど、自分の言葉が詩的とも思わないってことは、深層心理ではそんな気分なのかもしれないと気付かされて、憂鬱になってきた。
トノモトさん
僕は繊細でナィーブなんですね。知ってた?
まあ四六時中詩を考えてたわけじゃないしね。この新ぽえ会ができる前は小難しく厳めしいものしか文にしてなかった。
街中の写真を撮るのが好きなのですが、時々、形容しがたい写真が撮れ、…うーん、と迷ってしまいます。何とも、言葉にできない。その時のことを思い出しました。
濡れた唇の吐息の方が
言葉よりも信じられる
そうですね。私もそう思います。言葉にしちゃいかんのです。
思ったり思わなかったりします。
そもそも決定付けることを意識してんのかなーって。
>長谷川さん
長谷川さんの写真とても素敵です。カメラはいいですね、言葉はいらなかったり、言葉じゃ残せないものが残ります。
それに言葉は嘘つきます。自分にも。
>たちばなさん
もう、思わせぶりだなぁ。