萩
向島百花園を訪ねた。山茶花が赤い色をさらし
ている。わずかに咲き残った萩の紫が、寒風に吹
かれ揺れている。この町も高い建物が増えた。落
ち葉を踏みしめ池の周りをめぐる。葉のくずれる
乾いた音がする。
すぐ近くに、かつて詩友が住んでいた。一緒に
園内を散策したことがある。歳は私よりずっと上
だったが、腰の低い、含羞を絶やさぬひとだった。
郷里の長崎に帰って後も、詩作を続けられた。山
之口貘を彷彿させる味のある詩を書かれた。
訃報が届いた日のことは、今でもはっきり憶え
ている。風貌が、歳月の彼方に滲んだ。
落ちていた萩を拾う。薄陽が差してくる。陽は、
再び雲に隠れてしまう。風がやんだ。花びらをて
いねいに拭い、池の水にそっと浮かべた。
コメント
丁寧に描かれた情景が味わい深くて すてきです。
そして、詩友との日々がよみがえるような詩が更に深みを増します。
もっと言うと、詩友への長谷川さんの愛(友情などでしょうか)を感じます。
だれかを偲んで風景を眺める。だれかの面影によって風景の見方、感じるものが変わる。
だれかがいたから見て思い生まれる言葉もあるな。その思いこそ人とのつながりであるし、人として生きている証だなと思いました。
萩の舟が友のやさしい光の思い出を浴びながら旅立つようで、寂しく綺麗でした。
こしごえさん
誌友とは、歳がずっと離れていましたが、やはり友情なのかなと思います。詩を通してのお付き合いって、そういうところがありますね。誌友のよさかもしれません。
王殺しさん
書かれる詩も好きでしたが、人間性に魅かれたところがあります。詩友の存在が励みになっていました。
だれかがいたから見て思い生まれる言葉もある。
これは、よくわかります。詩友を一編の詩にまとめることができて、何だかほっとしています。
たちばなまこと/mさん
萩の花びらを、詩友に重ねたところがあります。薄い紫色が似合う方でした。冬の萩って、ちょっと切ないですね。
こしごえさん
誌友 ⇒ 詩友 です。失礼いたしました。
語りすぎないことで叙情性が増して良いですね。余韻の深みに浸りました。
たかぼさん
ありがとうございます。追悼を、淡々と表現したいという気持ちがありました。初冬の向島百花園は、花は少ないのですが、情緒がありました。
丁寧に描写される風景が、長谷川さんと詩友さんとの関係性を物語るようで、またそれが何よりの追悼となっているこの詩は、とても貴重な唯一無二の手段となってその方に届くだろうとしみじみ感じ入っておりました。
この詩は大好きです。情景が丁寧に描かれているように思われます。最後の一行が心に沁みます。
佐藤宏さん
読んでくださり、ありがとうございます。古い詩友のことを思い出し、書きました。萩の花びらを見ると、今でも、詩友の飄々とした姿が脳裡によみがえってきます。
あぶくもさん
詩友が他界されて、もう二十年になります。彼をテーマにした詩を書きたいと思いつつ、時間が経ってしまいました。短い詩ですが、何とか書き上げることができ、少しほっとしています。
ご返信が遅くなってしまい、失礼いたしました。