女・17歳・高校生
中学の三年間で計五人の男子に告白されそれ
まで全く容姿に自信はなかったがもしかした
ら自分はモテるんじゃないかと思い始め化粧
でより綺麗になりたいとかブランドもののバ
ッグを持つことで何かしらの付加価値を得た
いといった欲求が生まれた彼女は親の勧めで
女子高に通う羽目になってせっかく綺麗にな
っても見てくれる男子がいないんじゃ話にな
らないわと思い続けながら電車に乗っている
と同い年くらいのイケてる男子にナンパされ
て付き合うことになったがセックスをした直
後から全く連絡が取れなくなってしまい私も
しかしたら遊ばれたのかも知れないと悔しく
なって泣いた

女・23歳・サービス業
有名ではないがそれなりに頭の良い大学を出
た後たいした苦労もせずに貿易関係の企業に
就職が決まったが社長の脱税が発覚して一気
に倒産まで追い込まれ初任給も貰わぬまま失
業してしまった彼女は気持ちをすぐに切り替
えて再就職を目指したがツイてない時はとこ
とんツイてないもので父親が多額の借金を残
して蒸発してそのせいで母親が倒れて入院し
てしまいどうしようもなくなってデリヘルで
働くことになり小汚い醜男達のペニスを咥え
ながら一体私は何がしたいんだろうと悲しく
なってきて泣いた

男・45歳・営業
人の良さと要領の悪さが出世の邪魔をしてい
ると気付いたのは最近のことで未だ係長の机
に座りながら自分より年下の部長にネチネチ
と嫌味を言われるのは耐えられないことだが
妻や子供を食わせていかなきゃならないし甘
えたことは言ってられないのだが今日もつま
らないミスを犯して残業をする彼は実は妻が
浮気をしていることも知っていたしその相手
があの年下の部長であることも知っていたが
知らないフリをすることで自分の精神を保っ
ていたと言えるのだが妻があの男の子供を妊
娠し産みたいから別れてと言い出した時には
さすがに腹が立って泣いた

男・72歳・無職
長年連れ添った妻の病状が悪化し医師にもう
長くないことを知らされて初めて妻の存在の
大きさを実感するとは情けない話だと思って
これまでずっと迷惑ばかり掛けてしまったこ
とを謝ったがあなたがそんなことを言うなん
て明日は雪でも降るんじゃないかしらと微笑
む彼女を心から愛しく思ったその日に妻は逝
ってしまったが翌日本当に雪が降ってきてあ
いつは俺のことなら何でもわかってやがると
苦笑しながらも彼はただ泣いた

[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.072: Title by 渡辺十子]

投稿者

大阪府

コメント

  1. 涙、と一言で言っても色々な涙がありますね。それぞれの思いが宿る涙をこの詩で味わうことができます。

  2. 上の3人の涙はご自分のために流るるが、最後のご老人の涙だけ他人を思って流れる。
    涙に色はないけれど、味は違うかもしれないね。自分がこの世を去るまでに流したすべての涙その味が、結局は幸不幸の色なのかもしれないね。

  3. 最後の、72歳男性の涙に、救われました。そう、この男性だけ、人を思って流す涙ですね。本当に雪が降って来る場面、ほろっとしました。
    今年は、社会的にもいろんな事があって、たぶん流した涙もたくさんあって、この作品を拝読しつつ年の瀬を実感しています(涙)。

  4. 涙というお題でこれを書けるというのがやはりトノモトさんはただ者でないです。どれもこれもありがちな話っていえばそうなんだけど、このように詩という形態にするととたんに愛しくなるところが詩の魅力ですね。みなさんが言っているように、4連目があることで最後に全体が優しい雰囲気に包まれ、思わず読者も「涙」。

  5. 悔し泣き、悲し泣き、怒り泣き、、、
    さて72歳、なんとも言えない涙が溢れ出てくることが素敵。そんな涙、人生であと何回経験できるだろうか。

  6. 涙を流して泣くと、感情浄化みたいに、カタルシスを感じる、みたいなことを言いますね。泣きたいから泣いてるんでしょうけど。それが健康的。

  7. 感情に左右されて涙を流す生き物って、ヒトだけなのかなあ…と飼っている鳥たちなんかを見ながら考えます。
    人前で泣くことが照れくさいとか恥ずかしいとか感じるのは身の危険があるからなのかもしれませんね。

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