アトム寿司のころ

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あの日に出会って、人生なんていう些細な定式はどうでもよくなった。

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そりゃもう原発近くに住んでたからねえ。家財道具めちゃくちゃ。
おれ、故郷の鳥取離れて、長期出張で福島原発の近くの工場で働いてた、話してなかったっけ?
まあ、命だけあれば、なにもいらないって思ったね。
避難したの、原発から。そう、転々と、外は氷点下。避難所さがしの旅。
人生観なんてもん、がらっと変わるさ。

ガソリンが10リットルしか入れられなかったから、一か八かで並んだね。電車、高速、飛行場全滅。
福島空港はとんでもない所にあったから、無理だったし。
津波、ま、勤務地、自宅の200メートル先までは来てたな。黒い津波の壁、学校の屋上から見た。
まあ、それも人生だ。
ハイテンションだったよ。
自己防衛本能。
それで双極躁鬱、ひどくなった。

あの震災で、精神科、行列だった。
3時間待ち当たり前。そこで、鬱病診断。
アモキサン大量投与開始。初めての大鬱。
一年半はハイテンションだったが、ガクッときたね。
で、二年間抗うつ薬投与して大躁転して、二階からの転落事故、風俗狂い、PCやらやたら買いあさる。
酔っ払って保護された警察に説教なんかして、さすがに鬱病じゃないんでね?って他の病院行ったら、双極の診断。
家族の人生をも狂わせた黒歴史の始まりだったよ。

一人息子はあの時、家で1人っきりで耐えてた。死ぬかと思ったらしい。
早く迎えに行きたくても渋滞で行けない。ハイテンションにもなるわな。
ヨウ素剤も、飲んだ。
子どもはいざとなったら、案外強い。

雪の降る中、会津若松の避難所の前で放射線検査4時間待ちでならんだ。受けないと入れてくれなかったよ。
伝染病でもあるまいし。
しかたないね。前例ないからね。
息子の靴から微量の放射能、検出された。
だから、すぐ脱いで、ポイ。
雪の降る中。
前に並んでたおばちゃんは、奥でシャワー浴びさせられ、病院服着て出てきた。
雪の降る中。
まあ、前例ないから、しかたないんだけどね。
係の人は全員防護服。
広島・長崎から何も学んでない国ってすごいよ。

3日くらい、パン、おにぎり、水だけだったけど、3日目にしてやっとカレーが食べれた時は感動したな。
会津高校のヤンキー君たちが炊き出ししてくれた。
一度前例作ったら、原発なしでは維持できない街が出来上がる。
アトム寿司っていう名前の寿司屋があったよ。すごいでしょ。
ガイガーカウンターで学校の周りを毎日計るのが日課だったな。で、高い所、草が枯れてるの。
まあ、放射能で死ぬか、タバコで死ぬか、双極で死ぬかって思いだな。

あれだけひどいことを体験してるのに原発稼動を望む他地域の地元の人ってね、再稼働しないと、故郷がなくなるからね。
原発が唯一の頼み綱。
あのとき家がさ、立ち入り禁止区域ぎりぎりにあったわけ。そして帰るときに普通の格好の俺たちが防護服完全装備の人が乗るバンとすれ違うわけ。
もう笑うしかなかった。
その時は家族を新潟に住ませた。
窓開けてタバコ吸いながら、放射能が先か、肺がんが先かなんて考えたのはいい思い出。

原発が唯一の頼み綱。そういう国にしてきたんだな、この国は。
貧しい地域狙い撃ちで、そこに暴力団が絡んで、住民、やくざ、東電、ぜんぶハッピーになる構図ができたんだ。
地元の人はヤクザに感謝してるよ。
ヤクザが間に入って土地を高く買ってほしい住民と、安く済ませたい東電の調整役を買って出たわけだ。
そうでもしないと、住民は東電から安く買い叩かれてた。だからヤクザに感謝してる。
これは建設時の話だよ、東電は一次受けに日当9万払うが、孫請け、孫請けの繰り返し。
最終的に行き場のないチンピラが行かされてた。
その間のピンハネしてるのが会社登録してる個人のヤクザ。末端価格9千円だったらしい。
なんか歪な話さ。
だから、一回原発の話が出たら、止めようがないんだよ。みんな金欲しいし。
損してるのは末端ヤクザ。で、彼ら相手に飲食店、ホテル、風俗がはやり、街が栄えるってわけだ。
反対する住民と受け入れたい連中のしこりが原発利権の最大の産物。

福島の除染業者ね、ほとんど暴力団だよ。だからそこに運び込むのもたぶん暴力団になったと思う。
暴力団じゃなければ、原発区域内の建設業者。
ヤクザが消えないはずだ。
産廃業者だって、もともと暴力団が多いしね。ヤクザはある意味必要悪なんだよ。
それが利用し利用されて日本が発展してきた。
アメリカのマフィアみたいなもん。
資本主義とマフィアはセット。

爆発直後に行ってた人たち、みんな、シャワー室で刺青だらけ。
ヤクザもある意味社会的弱者だな。
ヤクザが底辺を支えてる構図もある。
困った時のヤクザ頼み。金でね。
俺も勤務地にいて、温泉入りに行ってたけど、かなり刺青さんに話しかけられたなあ。
結構フレンドリーで礼儀正しい。
群馬からきた刺青の若者と、1時間くらい湯船で語り合った。
がんばってくださいね、なんてヤクザに慰められたよ。

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あのころに出会って、人生なんていう些細な定式はどうでもよくなった。
命だけあれば、なんにもいらないって。

ま、それも人生さ。

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投稿者

徳島県

コメント

  1. 反社だコンプラだと、最近は厳しいですが、結局、裏社会の人間がいないと表社会も成り立たないのかな、などと、読後考えてしまいました。むしろ、表社会のほうが陰湿なヤクザです。

  2. 長谷川さん、ありがとうございます。この詩は友人から聞き書きした作品ですが、その部分はまあそういうものなのかなと複雑に思いながら書きました。「それも人生」という終わり方は個人を超えたものに対する気持ちも僕は込めていたのかもしれません。

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