無心

上空を
飛行船が過ぎていく。

陽ざしの眩しさに目を閉じ
再び空を見上げた。

眩しさの中
船は輪郭を少しぼかす。

ウイスキーの小瓶を取り出し
一口飲んだ。

感情が保護色を纏い
時間の狭間で戸惑っている。

どこかで
正午のサイレン
噴水広場をそのまま
歩いていった。

ウイスキーのせいだろう
人の流れも
舞い上がる水も
昨夜捨てた苛立ちも

まるで映画の背景だ
もしくは、異次元の穴。

飛行船は
もう見えない。

幼い少女が
突然傍らを駆け抜けていった。
慌てて避ける。

一瞬
スクリーンは現実と重なり
私は幾つかの保護色を
無心、という言葉に置き換えていた。

鳩が一斉に飛び立つ。

ウイスキーを
また一口飲む。

投稿者

東京都

コメント

  1. とても映像的な描写ですね。
    最高な昼下がり。
    昨夜の出来事もイメージしながら心地良い酩酊と自分以外のの全てが風景化した世界。
    保護色と無心か…素敵な変換。
    ウイスキーはトワイスアップが好きですが、ここではおそらくストレートでしょうね。

  2. 意識が自分から飛び立っていけば
    自分すら風景の一部になれそうな気がします。
    ウイスキーは詩人の必須アイテムですね。
    電気ブランでも良いかなあ(笑)

  3. ” 私は幾つかの保護色を
     無心、という言葉に置き換えていた。 ”
    ここ、かっこよくて見悶えます。
    ウィスキーはロックが好きです。

  4. ひとつひとつ丁寧に描かれた風景は、ひとつひとつ映像となって私の眼前にあらわれてくれました。自分はお酒がダメなのでウイスキーは飲めませんが、この詩には良い酩酊を感じられそうです。

  5. 映像が見えるようで、まるで渋い声のナレーションが入ったウイスキーのCMを見たような錯覚を覚えました。

  6. あぶくもさん
    時々、酔いどれ散策というのをします。街の風景の中に身体を溶け込ませていくのが好きなんですね。ふわりとした感覚…。私は、バーボン党であります。ワイルドターキー、フォアローゼスが好みでしょうか。携帯用のスキットルを持っていますので、それに入れて、街中で飲んでいます。

  7. nonyaさん
    風景と同化できたならいいなと思うことがあります。自分すら風景の一部になる…。共感いたします。電気ブラン、いいですね! 美味しいのですが、アルコール度数はけっこう高いですね。

  8. たちばなまこと/mさん
    保護色と、無心。実はとても迷ったんです。この表現で読み手の方に伝わるかどうか。そう言っていただけると、嬉しいです。ウイスキーのオンザロック、いいですね。たちばなさんに似合いそう…。

  9. トノモトショウさん
    たしかに、映像を意識したところがあります。詩を書く時、まず、視覚的、映像的なものをイメージすることが多いですね。短編映画を、もっとぎゅっと凝縮させたものが書けたら、という想いはあります。…飲んべえ詩人であります。

  10. たかぼさん
    そういうふうに読んでいただけると、嬉しいです。できるなら、俳優の國村準さんにナレーションで語ってもらえたら、本望でしょうか。…サントリーのCMみたいに。

  11. 情景描写がすばらしいです。
    長谷川さんの詩は、いつも描写がすばらしいと思います。
    まるでこの詩を読んでいる自分がその場を体験しているような感覚が起こります。
    そして、なんだか やわらかい哀しみというかさびしさなどが優しく私のこころをなぜてくれる詩だなぁ、と感じます。すてき。

  12. こしごえさん
    ありがとうございます。上野公園の噴水広場を背景にして書いてみました。予定のない休日など、時々、ウイスキーを持って散策します。ほろ酔い散策ですね。30代、40代は、ほぼ映画漬けでした。映画館に入り浸っていました。映像的な詩が好きなのは、その頃の影響があります。

  13. 映画のワンシーンみたいですね。いつも情景描写が秀逸だと感心しています。
    次はガラスのスキットルがあれば、ウイスキーの琥珀色を通した世界を描いて欲しいな…と、欲張りな期待感が増しました。笑

  14. 渡 ひろこさん
    映像を意識したところはありました。飛行船が空を流れていく光景や、舞い上がる鳩や。ガラスのスキットルを持っておりませんので、Amazonで探してみますね。…あるかな?

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