焼ける街の測量

街の境界線は、熱を帯びた境界壁として街を分断している。測量士の男が担ぐ測量器は、皮膚を焼くような真鍮の臭気を放ち、その重みで男の背骨を少しずつ屈曲させていくようだ。朝、太陽は西から昇り、住民たちの影は、昨日とは逆の方向へ、地面にへばりつくようにして移ろう。
男は、都市の端々でずれる空間の隙間を測る。彼の作業は、世界の厚みの半分を、剥き出しのまま透き通らせることだ。鏡を覗き込むように、実在の向こう側が透けて見える。測量器を覗く男の視界は、極限まで絞り込まれた針穴のようになり、その先で街は、呼吸をするたびに形を変える。
彼はポケットから古い巻尺を取り出し、ひび割れたアスファルトの裂け目を測る。そこに定規を当てる。計測する行為そのものが、世界の物理的な形を腐食させる。摩擦によって世界が摩耗し、指先からこぼれ落ちる。彼は自分が何のためにこの作業を続けているのか、その理由を思い出すことができない。ただ、もし測量をやめれば、自分の内側にある何かが決定的に欠落し、街と共に自分も消えてしまうという、生理的な恐怖に支配されている。あるのは、ただ測り続けなければならないという、皮膚感覚に近い強迫だけだ。
空には二つの月が重なり合い、片方は青く、もう片方は腐った果実のような黄色で燃えている。男の視界は光のように鋭い。空間が歪む。男はただ、その歪みの中心を、正確に記す。
男は測量器から目を離し、再び街を見る。遠くで誰かが何かを呼ぶ声がする。しかし、彼の視界には、荒野と、その先で陽炎のように揺らぐ境界壁しか映らない。声は響く。しかし、それはどこから来るのか。男は自分の指先を見つめる。インクと砂に汚れたその指先さえも、今は透明な膜の向こう側にあるように見える。
男は歩く。測量器の三脚が硬い路面を叩く音が、不規則的に乾いた響きを立てる。 街の通りには、無数の「置換」が放置されている。かつては家であったはずの直方体が、今では中身の詰まった巨大な石の塊へと姿を変え、道端に打ち捨てられている。男はそれを避けるようにして、自分の帰る場所であるグラフィーネを目指す。
すれ違う住民はいない。あるいは、彼らもまた薄膜の向こう側で、音もなく別の時間を生きているのかもしれない。 ふと、街の角に設置された公衆電話が、受話器を外したまま震えているのが目に入る。受話器からは人の声ではなく、砂嵐のようなノイズが漏れ出している。男はその前を通り過ぎる。この街において、情報を伝えるための器具は、すべてノイズを吐き出す器官へと変異していた。
ようやく目に入ったグラフィーネは、昨日よりも少しだけその輪郭を曖昧にさせていた。壁のレンガは、まるで生きている生物のように微細な脈動を繰り返し、男の帰還を待っている。男は鍵を差し込む。扉の向こう側には、まだ「意味」が保存されているはずだ。そう信じなければ、男は今すぐにでも、この街の風景の一部へと成り果ててしまう。
鉄の扉が重い音を立てて開く。室内は外の空気に比べて不自然なほど冷え切っており、微かに埃と古い紙の匂いがする。男は測量器を部屋の隅に置く。真鍮の三脚が床を叩く鈍い音が、この部屋の「現在」を繋ぎ止める唯一の合図だ。
男は手際よく湯を沸かし、白湯を作る。湯気が立ち上る。その揺らぎを見つめながら、男はさっきまで自分が何を測っていたのかを反芻しようとする。しかし、記憶はすでに砂のように指先からこぼれ落ちている。
外では、相変わらず荒野が音を立てずに膨張し続けている。男は、明日の朝には再び測量器を担ぎ出さなければならない。その強迫が、部屋の静寂の中で、澱のように積もっていく。

投稿者

京都府

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