桜、孤城へ
畳の上で
私は数年前を思い出していた。
初めて日本を訪れたあの日。
大阪から和歌山へ向かう旅だった。
その頃には、
私はもう詩を書き始めていた。
関西から東京へ。
それが私にとって
初めての東京だった。
「一度、東京の地下鉄に乗ってみたい。」
それがあの頃の
ささやかな願いだった。
バスの窓から
線路が流れていく。
その線路の上を
一人の少女が駆け抜けていくのを見て、
私は思わず
『線路の上の少女』という詩を書いた。
東京で過ごした時間は
決して長くはなかった。
それでも私は、
自分がまるで
一つの孤城のようだと感じていた。
城の外には
荒れ草が果てしなく広がり、
城の内には
桃源郷のような静けさがあり、
池には絶えず
波紋が揺れていた。
それは
私という人間にも似ている。
春風に包まれるような優しさを愛し、
冒険を愛し、
困難の前でも
決して退くことはなかった。
幾年もの歳月が流れ、
私は再び東京を訪れた。
渋谷のスクランブル交差点で、
人波に紛れながら歩く。
この街の人々はきっと、
ほど近い上野公園を忘れないだろう。
風に舞い上がった桜の花びらは、
喧騒の街へと舞い降り、
そして私の掌へ。
そのまま、
私だけの孤城へと運ばれていった。
私は舞い散る花びらを見上げながら、
願っていた。
もし、
この孤城にも、
あの桜が降り積もるなら、と。
花びらは川へ落ち、
ゆっくりと流れ、
城いっぱいを
桜色に染めていく。
私はもう
孤城とは呼ばない。
その城を、
「桜城」と呼ぼう。
私もまた、
桜を信じる者だから。
城の上から
私は東京を眺める。
心はいつしか
繊細な想いに染まり、
夜になっても
眠ることができない。
三度目の東京を夢見る。
桜咲く谷を歩き、
花びらとともに流れ、
私がずっと恋い焦がれてきた
あの孤城へ帰りたい。
いつの日か、
私の孤城も
桜に祝福されるだろう。
そして東京とともに
美しくあり続けるだろう。
波紋を描く池には
風に散った桜が静かに浮かび、
私はその傍らで
そっと呟く。
人は桜のように
清らかで、美しく。
この世は秋水のように
澄みわたり、静かであれ。
コメント