あんたはいつも若いな

 雲なくて
 ウイユ・ドゥ・ペルドリの山の端に
 三日月が孤舟になって
 胸の底でジンと澄む

 中古マンションの敷地内、
 通りを突き当たって三階のベランダ
 お隣つづきの奥さんたちが
 柵越しに声を弾ませていた

 瞼に、そんな明るい残像のかげ
 あれから十数年が経ち
 お隣には遺された旦那さんの点す窓明かり
 その隣はグループホームへ入居され
 若夫婦が引っ越してきたばかり

 ロビーで待つエレベーターから
 下りてきた井上さんが
 「おかえり!」
 笑顔を見せ、言葉を続ける
 奥さんは病院にある施設へ入所され
 「ワイフも居らんようになって、ワシも独り暮らしや。
  たまには覗いてやぁ!あんた、いつも若いな」
 目を細める井上さんにポンと肩を叩かれて

 (そんなことないですよ)
 の一言を呑みこむ冷たい鍵の手触り
 玄関を開ければ
 私の靴だけがある下駄箱
 
 
 

投稿者

滋賀県

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