Worry Tree

 あるき慣れた道など
 どこにもない
 縁石の摩耗や標識の角度を覚えているだけ
 アスファルトを割裂する雑草が
 確かな自律性でそこに宛てがわれている

 「生体はなるようになる」
 離れて暮らす父が呟いた呪文
 腎臓を切除するための検査のあとで
 いまは元気だから、と
 私の予後まで気遣うように

 父は、ふいに
 その病院で見かけた年配の男を
 「いい感じだった」と語りだす
 つばの長い黒いハット
 薄い黒地に細い白線模様の半袖
 スマートな体型と白いズボン
 俯き加減に通り過ぎ、顔も見えない他者を
 佇んで見送る父のなかの
 静かで若々しい憂愁

 休日の朝、冷凍飯を温めて
 無造作に落とす白菜キムチ
 ぼんやり消費するテレビの甲子園
 近ごろ目の下にうっすら
 自分の影を置いてうずくまる隈を
 はがすことはできなくて

投稿者

滋賀県

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