バス
僕は昔人間の盾だった
僕は今はカオがない
僕のお金は
巡り巡って武器になった
子どもたちよバスに乗れ
大人たちは人間の盾になる
バスはふもとへ降りていく
武器になった僕のお金は
雪のように降りしきる
盾だったはずの僕の体は
今度はあなたを傷つける
すべての城は朽ち果てて
奪われたものも土へ還る
子どもたちはやがて武器を持ち
荒れた大地を行進する
子どもたちはやがて
あるはずのない線のその縁に立ち
あるはずのない線の盾になる
バスは砂塵を上げてゆく
僕はないはずのカオを掻きむしって
ただただ掻きむしりながら
一斗缶に血を吐く
ただはくばかりで
子どもたちに靴を履かせることもできない
ツナミもないのに人が死ぬ
わかっていたのに人が死ぬ
当たり前のように弾がとぶ
バスから降りれぬ子どもたち
降りれぬまま歳をとる
カオのないまま見つめてる
僕は昔人間の盾だった
コメント
この詩から他人事ではない戦争の空しさなどを感じます。それらがうまくこの詩で作用しています。
王殺しさんの繊細な感性がよく表れている詩だなぁと思います。
そして、「ツナミもないのに人が死ぬ
わかっていたのに人が死ぬ」と言う所に二重の悲痛さが残ります。
盾だったはずの僕の体は
今度はあなたを傷つける
このフレーズに、ぐっときました。防御が、いつしか攻撃になっている。人間の本質を突かれたように思いました。
感染症も天災も寿命も癌も、そして巻き込まれる戦争も。
人の命は思い通りにはならなくて、人は無力だと思い知らされます。
カオがなくなる、というのがなんだかその無力感に通ずるなと思いました。