邂逅
大袈裟に言うならば生まれて初めて出会う人たちだ、20代後半をともに過ごしたような感覚だけが勝手に自分の中にある、楽しみにしていたお盆休みの表銀座縦走計画は大雨の影響で登山口に向かう県道の橋が崩落してキャンセルせざるを得なかった、あたりの人々の生活は無事に復旧できただろうか、娘不在のタイミングで先週妻とふたりでアウトレットへ出かけた、山に行けなかったことを良いことにトレイルキャップを買おうと探したがどうにも気に入るものがなかった、ある意味老後をシミュレーションするような二週間を過ごしてこんな感じも悪くはないかと思ったりした、そうこうしてると夏休みは終わっていた、夏の終わりにこんな日があって良かった、なんだか嬉しくて予定よりずいぶん早くに家を出た、あちらこちらをブラブラしている、そして今日も雨、認めたくはないのだが最近のおれを取り巻く状況からするときっとおれのせいだと思わずにいられない、御徒町のスポーツアウトドア用品店でトレイルキャップを試着する、コスパ良いのはやはりここらへんのやつかと当たりはついたが購入にはいたらない、外へ出たらパラつき始めている、用意周到に折りたたみ傘を鞄に忍ばせて来た、日傘兼用の折りたたみジャンプ傘だ、さぁさそうとボタンを押すがカチッと言ったきり開かない、何度か試して諦める、あぁついてない、いや、そんな言葉は自分で言ってはいけない、何年ぶりだろう駅前のコンビニで安傘を買う、そのまま読書でもしようかと安コーヒーショップに入る、コーヒーにミルクを入れて慎重に席に運ぶ、ようやくテーブルに置こうとしたその時差し出した手によって肩から提げていたトートバッグがガタンと落ちた、反動でコーヒーは波打ってこぼれる、最悪だ、そう口走ってしまった自分の視線の先には隣の席で勉強している女子高生がいた、先に自分の苛立ちを口にしたことを悔やむ、大丈夫?かからなかった?ごめんね、あ、だ、大丈夫です、と優しかった、それが確認できて少し落ち着く、MサイズがSサイズになってしまったのに店員さんは溢れたコーヒーをダスターで拭き取るだけだった、おれならまわりのお客様を最優先に対応した後に溢してしまった当人にもコーヒー入れ直しますねと言うだろう、しかしながらこれは完全に自業自得なのだから誰かを責めることなどできない仕方のないことだ、気を取り直して懐かしい安コーヒーをすすり、『香港陥落』のSide Bを読み進めるもあまり乗って来ず、手はスマホに行ってしまってさっき見たトレイルキャップを検索してしまう、やっぱりどこも同じ値段かとスクロールしていたらAmazonで35%オフで見つけてしまった、良いこともあるじゃないか、それならおれも素直な詩を書いてみようとそのままスマホのメモに得意のフリック入力で詩を書く、イマココ、そろそろ山手線で普段乗らない内回りで新宿駅に向かおう、新南口だ、これだけ書いたらもう話すこともないだろう、待ち合わせ場所を遠巻きに眺めて帰ろうか、誰もおれの顔なんて知らないんだから
コメント
一気に読めました。「、」で詩行をつなぎ合わせるという工夫、おもしろいです。
これだけ長めのものを、一気に書いたのでしょうか。すごい。
トレイルキャップ、との邂逅でしょうか。
思いがけない幸運、ってありますよね。
ラスト、
待ち合わせ場所を遠巻きに眺めて帰ろうか、誰もおれの顔なんて知らないんだから
この終わり方が、なんだか謎めいて? いて、なんともいいです。
「大袈裟に言うならば生まれて初めて出会う人たちだ、20代後半をともに過ごしたような感覚だけが勝手に自分の中にある、(中略)、待ち合わせ場所を遠巻きに眺めて帰ろうか、誰もおれの顔なんて知らないんだから」という、なんとなく20代後半にインターネット上だけでやり取りした古くからの友人との「邂逅」に至る(かもしれない)までの「これだけ書いたらもう話すこともない」という詩だと思うのですが、この形式が新しく思えて面白かったです。
たまたま私も昨日、数年言葉だけで交流してきた方とお会いしました。
変わらずコミニティーに親しんだくださったなら良いなぁ、などと夢想しています。
昨今は物理的に離れている友人たちでもSNSで様子が垣間見られることから日ごろから会ってお茶したりしてたように錯覚します。
物理的距離が近くて親しくなった人もいれば概念の距離が先に近くなった人もいてどちらも変わらずいとおしいと感じています。
コーヒーをひっかけるあたりのやりとりの描写から語り手の人柄を想像しました。
今朝はまだコーヒーを飲んでいないので無性に飲みたい!(電車内にて)
@こしごえ
さん、コメントありがとうございます。長いやつなのに読んでもらえて嬉しいです。
そうなんです、いろんなモノゴトの邂逅を描いてみました。
@たかぼ
さん、コメントありがとうございます。
日常の中に詩があって詩の中に日常があって詩人はすっぽりと抜け落ちたら顔を出したりするメタメタな世界となりました。やっぱりたかぼさんに面白がってもらえると励みになりますー
@たちばなまこと
さん、コメントありがとうございます。
そうですか、たちまこさんにも素敵な邂逅があったようでシンクロ感ありますね、良かった、あぶくも全編実話シリーズですが、最後だけフィクションになってしまった、二日酔い寸前まで飲んではしゃいだのに、朝起きたら涼しいので久々に海までジョグって来た、ここ最近で蓄えた内臓脂肪や皮下脂肪が4kgほどになっていて、これ膝いわすやつやんと反省するも、いつもの居場所は心地良い、イマココ、そんな居場所がまたひとつこの歳で増えるならこんな嬉しいことはないなと思う、キャラが明るみに出たらバランス取るようにセツナ系の詩が書けそうな気がする、誰もおれの闇なんて知りたくもないんだから
こんにちは。
フラッシュバック、や
なんて言うんでしょう
パッ、パッ、パッと明滅するモノクローム
そのように読ませていただきました。
ありがとうございます。
@wc.
さん、コメントありがとうございます。
形式的にそのようにも読んで頂けて嬉しいです。私にとって詩の内容だけでなく形式も含めて読む人との対話みたいになっていたら光栄です。
待ち合わせの場所に向かう途中の、気持ちの高まりが、とてもリアルに描写されていますね。それが邂逅であるなら、なおさらでしょう。臨場感を感じました。
@長谷川 忍
さん、コメントありがとうございます。
気持ちが高まっているのに帰ろうとするラストですね…待ち合わせていたものの、それもそう、目の前で起きている大小たくさんのことも長い目で見ると邂逅なんだろなぁというところでタイトルとなりました。