満月の夜
牛乳を飲んでいると
義男がやってきて
大変だ、と言う
それならば、と二人で
小さな笹舟に乗り川を下る
両の川岸には桜並木があり
象が美味しそうに花を食べている
食べ過ぎてはいけないよ
男の人が優しく象の頭を撫でる
校長先生なんだよ
義男が教えてくれる
名前を聞くと
人に名前があるなんて可笑しいよね
そう言って笑う
笹舟はやがてトンネルに入り
暗闇に包まれる
何かが水に落ちる大きな音がする
義男
と声をかけるが返事がない
持っていて懐中電灯で照らすと
川が無い
今しがたまで乗っていた笹舟もない
懐中電灯だと思っていたのは
綺麗な満月で
義男が満開の桜の下で
ヴァイオリンを弾いている
聞いたことがあるのに
題名を思い出せない美しい曲
義男は弾き終えるとこちらを見て
誰なの
と聞く
すべてのものが月明かりに溶けて
義男はその溶液を小瓶に詰めている
誰なの
いったい誰なのだろう
これから口にする自分の名前に
自信が持てない
コメント
こわい。
たもつさんは、こういう詩も、うまい。
義男との冒険譚が月明かりの形をした心地よい子守唄になったように感じました。
わぁ、こわい。わたしもこしごえさんと同じ感想になっちゃった
こんな詩もあるんだ!って発見です
ずらし方の妙かと思いました。
雄弁は銀なのですが
銀は銀なりに価値はある、かなー
ないかなー
好きだから仕方ありませんね
失礼致しました。
うふふふふ、みたいな声で笑いました。
校長先生って良いものですよね。
幻想譚のような、異界譚のような、不思議な情景を想像してみました。
すべてのものが月明かりに溶けて/義男はその溶液を小瓶に詰めている
この二行が、効いています。
…怖い。
「聞いたことがあるのに
題名を思い出せない美しい曲」を私も聴きたい。
やっぱりたもつさんはたもつさんだ。
しっかり自信持って口にしてください(笑)
@こしごえ
こしごえさん、コメントありがとうございます。
背筋がぞっと、ではなく、すっと薄っすら寒くなるようなものを書いてみたいと思っていました。
こわい、ということばありがたく頂戴しますね。
@たかぼ
たかぼさん、コメントありがとうございます。
イメージの世界なのですが、生きる、ということがすうっと落ちていくような、そんなイメージの中でどこにどこまで落ちていくのか、と考えたときに、心地よい子守唄、というコメントは救われるような気がして嬉しいです。
@イチカワナツコ
イチカワナツコさん、コメントありがとうございます。
佐々宝砂さんはホラーと怪奇系の詩を専門に書かれていてとてもぞっとした記憶があります。
私の住んでいるところは最近は少し涼しい日が続きましたが、今週はまた暑くなるとのことで少しでも涼をとれたらな、なんて思います。
@wc.
wc.さん、コメントありがとうございます。
イメージの連続を如何に脈絡なく繋ぎ合わせられるかな、などという私自身への宿題でもありました。ありがとうございました。
@たちばなまこと
たちばなまことさん、コメントありがとうございます。
声にならないような声で笑ってしまうこと、ありますよね。
校長先生、とても偉いのに、言葉の響きの中で少し滑稽なイメージがありますよね。デビルマン等の学園物の見過ぎでしょうか、なんて無理矢理同世代に話を振るように。
@長谷川 忍
長谷川忍さん、コメントありがとうございます。
引用していただいたところは最後の最後で入れました。もっとあっさりしたつくりだったのですが、このあたりは作者の我儘でどうしても入れたかったところです。
ありがとうございました。
@あぶくも
あぶくもさん、コメントありがとうございます。
「題名を思い出せない美しい曲」を持ち寄る会でもやりましょうか。結構みんなひとつやふたつはあるかな、という気がします。
鏡に向かって自分の名前を呼び続けると、名前、というよる言葉自体がぐにゃりとしてきて、その輪郭をなぞるのは意外と面白いです。
佐々宝砂さんの怖い詩は、こわさ抜群だという印象があります。
こわいのは、こわい。個人的には、こわいのは、苦手というか、こわいので 嫌です。
でも、でもね、こわいものは、読者や 見た者が、こわい、と感じたりすれば、成功なんだと思う。ふふふ。
たもつさんのこの詩は、『そういう意味では、』成功している。と、えらそうに言うけど、ですね。すてきな こわさだ。
佐々さんと、フェイスブックで友達同士なんだけど、最近、タイムラインに投稿が無いかな(?)。現フォでも投稿無いですね。
いろいろあるのでしょう。ね。
@こしごえ
こしごえさん、コメントありがとうございます。
憧れていた人たちがいなくなっていって、皆さん、いろいろあるのだと思いますが、やはり寂しい。無責任に寂しいと思ってしまう。
@たけだたもつ
読み手の私も自信が持てなくなります。
何と言ったら良いのでしょうか。掴もうとしても掴めない。来た道を戻ろうとしても戻れない。トリックアートみたいです。
@3.5代目はリハッチャン
@3.5代目はリハッチャンさん、コメントありがとうございます。
ふとした何気ない瞬間に自分が自分であることに自信をもてなくなる時、なんかありますよね。そんなことをふらふら思う時、自分はもういないのかもしれせんね。