内側に描かれた絵

 靴音だけを正確にはね返し
 ふくらはぎの温度を奪う
 圧縮された石灰の嘘
 午前三時前の沈黙に嵌め込まれた
 オープンカーのボディーを眼差しで
 摩耗しながらロビーを抜けて
 タクシーが待つ人工の庭へ出た

 羽布団の白を払い除け剥き出しになる
 鎖骨から肩先へと零れ落ちる崖
 軽くウェーブする黒髪が
 やさしくかかる額、その静寂
 ツインベッド宮に組み込まれた
 ナイトパネルの時計が明滅している
 ————また連絡してもいい?
 尋ねてくる、その声を

 エンジンの始動音が塗りつぶしていく

 そうね
 と、紅をひき終えた唇の端で
 笑いかけた
 色づき始めた銀杏の林の夕暮れを
 彷徨っても
 彷徨っても陽が沈み切らない
 其処から逃げきれないまま
 背筋を硬らせている
 そんな時なら

 そんな時に
 わたしたちの蛤の内側にまだ
 似通った絵が描かれていたなら
 コバルトブルーのオープンカーがある
 このホテルで、あいましょう

投稿者

滋賀県

コメント

  1. 2024年9月14日に書きました「貝合わせ」を改訂しました。

  2. その絵をあわせたいと思いながらもそっけない態度。やはりそれは無機質な都会の無機質な関係(訳ありの関係ともいう)なんでしょうか。オープンカー以外色を感じない情景(オープンカーも冷たいブルー)ですが、貝の内側には華やかな彩りを期待するのでしょうか。

  3. @王殺し
    様
     読んでくださって、ご感想のコメントをどうもありがとうございます。^^
     車種は何だったのかな?……車に詳しくないから分かりません。スーパーカーっぽい
     ボディーではなくて丸みのある、どこか可愛い感じの外車オープンカーだったような。

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