川土手の葛
秋になると、川土手をびっしりと覆う葛の茂みは、セイタカアワダチソウとススキの求愛を受
ける。セイタカアワダチソウはあちこちで葛の茂みを下から貫き、空に向かって茎を伸ばし、
黄色い花冠を風に揺らせて葛の気を惹こうとする。それに遅れを取るまいと、ススキの群れも
銀色の穂を伸ばしてくる。だが葛は、春から夏にかけて茂みに棲んでいた虫や百足や蛇、そし
て迷い込んで来た犬や猫やヒトから零れた夜の呟きを捕獲する作業に夢中で、セイタカアワダ
チソウとススキの試みは徒労に終わってしまう。
夜の呟きに触れることで葛の葉には黄変が兆し、細かな斑点が表面に散らばり、小さな穴も開
いてくる。秋が深まるにつれ、葛は蔓の先端から衰えてゆくが、代わりに夜の呟きをくるくる
と丸めて生まれた星の子をサヤに包み、風に頼んで地上に落下させる。だが、捕獲した夜の呟
きの多くは地中に潜り、黒々とした長芋状の塊根を形成して、そこから分泌された星気が、葛
の地上の冬枯れを茎の節部で食い止める。そこに冬眠星を作り、春の発芽を待つのだ。
盛冬を迎え、葛は自らの運命を受け入れ、冬眠星のある茎を除く大半の部分は速やかに枯死し
て行くことを望んでいる。しかしセイタカアワダチソウとススキは葛に追い縋る。セイタカア
ワダチソウは萎びた花冠を狂おしく風に散らせ、ススキはその穂から冬枯れた葛の茂みに銀粉
を撒き散らす。ここにきて初めて、葛は彼らの求愛を受け入れる気になり、彼らに星気を分け
与える。やがてはセイタカアワダチソウとススキも枯れてゆくが、どちらも星気を凝縮した地
下茎として冬を越し、春からの葛の発芽と繁茂と衰退を、また共に追い掛けては求愛し、また
共に滅びてゆく。
コメント
写真は初夏~夏にかけての時期に撮ったもの。秋の写真が無いので。
これ、読んでて心地よくて好きだなあ。
アレロパシーみたいなことをこういう具合に表現されるのは良いですね。
あぶくもさん、ありがとうございます。
アレロパシーの言葉を知らなかったので検索してみて、そういうことかなるほど、と思いました。
全くの思い付きの設定の作品ですが、こういうのはよほど魅力的な仕掛けとか、文体とか練って作り上げないとダメだろうし、その点イマイチかと思っているのですが、アレロパシーという現実との繋がりが想起されることとなり、これは一つの強みだと、積極的に良い方に意味づけちゃおうと思います^^。Thanksでした!
川土手の下で絡まりあいまくっている様が、誠に面白かったです。
何の変哲もない土手の茂みの中で、このような情事がロマンチックに展開しているとは、
大変すばらしく印象的に感じました。
ザイチさん、コメントありがとうございます。私にとって「情事」という言い方は一つの気づきでした。本文中で使えばよかったな。今後の推敲過程で一考したいです。Thanksでした!
セイタカアワダチソウがアメリカブタクサと混同されがちなのが、常々可哀想だと思っています。日本の固有種は、土の下で厳しい冬を耐え、次の世代に繋がっていってほしいものです。
BENIさん、コメントありがとうございます。仰ること同感です。ブタクサは花粉症のアレルゲンですよね。花粉症のある私としては苦手にならざるを得ないなあ。またよろしくお願いいたします!