冬の夜
あなたの前に来ると、少しだけ世界が近くに感じる。
土の匂いと、見えない季節の風が、私の体を優しく撫でていく。
ここに来る途中、駅前のパン屋から焼きたての匂いを運んできた。
あなたはこういう、素朴な匂いが好きだったから。
半分こには、もうできないけれど。
石に額をこすりつけ、目を閉じる。
昨日見た鳥のこと、追いかけた蝶のこと。
私の想いはいつも一方通行で、冷たい石のなかに、静かに吸い込まれていく。 それでもいい。
あなたはきっと、世界一の聞き手だから。
返事がないことにも、もう慣れた。
あなたの沈黙が、一番優しい答えだと知っているから。
夕暮れが近い。
影が長く伸びて、私の輪郭を曖昧にする。
「もう行くね」と心で告げ、最後にもう一度、冷たい石に、そっと頬をすりよせる。
名残惜しく振り返り、私は小さく呟いた。
にゃあ。
コメント
ん?にゃあ?愛猫からの視線でしたか。