柘榴

妻がまた柘榴を食べたいと
言い出した

俺はそれが美味いのかどうかも
知らない

俺の脚が果物屋へ向けて
勝手に駆け出したのだが

店に着いたとたん
運悪く陳列台の脚が
ぽきりと折れたのだ

古い店なので
古い台の脚の中身が
腐ってしまったのだろうと言う

陳列台におとなしく
座していた柘榴のいくつかは
荒々しく地面に転がり
叩きつけられ割れたものも有る

ルビーの様な美しさ
人の傷口の様な痛ましさ
酸っぱい想いが込み上げる
何だか堪らない気分になり

陳列台が壊れて
あたふたしている店の中
割れていない柘榴を
一つ取って買った
一個六九八円もした

勘定を終えて
帰りながら思い出したのだが
妻は

テレビの懐メロ番組を
観ながら
美空ひばりの
真赤な太陽を
大声で歌っていた

幸せな
女だと心底から思った

その様な事を
考えながら
陽の落ちかけた
暗い路を

柘榴一つ握り締めて
歩く忠犬の様な夫は俺

そして狭く汚れた
我が家に着くと

煌々と灯る明かりの下で
大きな口を開けて寝る女の図
真っ赤な口腔

怖い
恐怖でしかない
真夏の
恋の季節は終わったのだ

投稿者

愛知県

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