診療台

診療台の上で僕は歯科衛生士のエミコさんに
いいようにやられている
ネコ科の野生動物を連想させる肢体
スケーラー、キュレット、ブラシなどを駆使して
エミコさんはしなやかな所作で歯石をとり
クリーニングをしていく

痛かったら左手を挙げてくださいね
エミコさんが耳元で囁き
ピンセットで歯肉をつつく
僕は左手を挙げる
これは?
ゴム手袋をつけた指でそっと押してくる
あがが(いいえ)

日は既に傾いていて診療室には
ほんのりと夕陽が差し込んでいる
エミコさんは時々シルエットになって
ぼんやりとした僕の輪郭に重なっては
少しずつほつれていく

そうなの、じゃあ、これ
ゴム手袋を外した素の指で優しく撫でる
あがが(いいえ)
指は滑らかに歯肉を移動し
口の粘膜を愛撫するように弄る
あっ
思わず僕は声を出してしまう
初めてではないでしょ?
口の中に唾液がたまる
バキュームで取る気配がないので
飲み込もうとするけれど
だめよ
と、エミコさんは耳に息を吹きかけてくる
あっ
もう一度声を出してしまう
診療台の上で
僕は自分の唾液に溺れそうになる

深まる夜の闇にエミコさんは徐々に溶けて
月明かりになる
窓から差し込んで僕を照らしている
月明かりの舌が唇をこじ開けて
僕の中に入ってくる
舌は魚
唾液の海を優雅に泳ぎ
その身を翻す
僕はゆっくりと
僕の水底に沈んでいく

投稿者

コメント

  1. 歯医者さんの診療台に座って、治療を受けている臨場感が、リアルに伝わってきました。エミコさんの描写が叙情的ですね。

  2. 歯医者って強制的にMな立ち位置ですよね。「診療台の上で/僕は自分の唾液に溺れそうになる」が秀逸。私もどうせならゴボゴボと溺れてしまいたい(変態です)。そして、最終連でしっかりとたもつさんしてて唸ります。

  3. なんだこれは。週明けに歯医者にいくのだけど、いやだったのが楽しみになった。溺れてもいい。
    すげえ綺麗な人なんだよな。マスクしてるからよくわかんないけど。
    という気持ちに溢れました。

  4. か、官能的ですね〜
    診察台、特に歯医者って口を開けた状態だから
    抵抗出来ない、というかね

    でも本当は歯医者じゃなくって
    違う意味だったり

    ムフフフフ(⁠ ⁠ꈍ⁠ᴗ⁠ꈍ⁠)

  5. 診察台っていうタイトル見てまたエロか?と思って読んだら…きれいだった。こういう飛躍の詩、書いてみたくなりました。最後の連の、眠りに落ちる前の意識が混濁するかんじがいいです。

  6. わあ、たもつさんこんな風にも書かれるのですね。すごいです。
    なんだかこそばゆくなりました。
    最後は美しく消えていきます。

  7. 舌は魚は素敵な言語化。と のたまうウミウシ

    あとガリガリの音が直接のうみそに伝わる感覚とか
    たぶん患者の位置を固定する為のそういうマニュアルなのか
    しっかりと身体を押しつけてくる人とかありかな と かね

  8. 近頃の歯医者は痛くないので私はいつもほとんど眠りそうになるのを必死でこらえています。要するに気持ちいいんですよね。特に処置しているのが女性の場合は。そういう気持ちをきれいな詩にして頂いた気持ちです。

  9. @長谷川 忍
    長谷川 忍さん、コメントありがとうございます。
    歯科の診療台ってルーチン作業が多くて物語が起こりづらい感じがしていたので、その静謐な流れの中で何か起きないかな、などと考えていました。
    あまり叙情的なものは書かないので叙情的と言われると嬉しいです。頑張って書いた甲斐がありました。

  10. @あぶくも
    あぶくもさん、コメントありがとうございます。
    確かにもう成す術もなくまな板の上の鯉状態で相当にMの状態ですよね。
    そういえば、以前に詩仲間が「SはサービスのS」と言っていたことを思い出しました。
    Sの方はSの方でいろいろと大変なんだな、と思った記憶があります。何の話や。

  11. @王殺し
    王殺しさん、コメントありがとうございます。
    私は歯医者は結構好きで、いろいろとしていただいていると気持ちよくなって(何かエロい言い方だな)眠気との戦いです。
    嫌なことといえば、たかが30分とはいえ予定が入ること。予定が入るとそわそわして、1日が落ち着かないのですよね。
    是非、綺麗なスタッフの方とのひと時をお楽しみください。

  12. @雨音陽炎
    雨音陽炎さん、コメントありがとうございます。
    診療台でなければ何だろう、と考えた時に頭に浮かんだのは地獄です。
    もしかしたら地獄で罰を受けているのかもしれない。じわじわと責められるのに最後までたどり着かない、生殺しの計、とか
    いや天国だろう、という突っ込みもありそうですが、なかなかの苦痛とも思えます。何の話や。

  13. @花巻まりか
    花巻まりかさん、コメントありがとうございます。
    なかなかにエロは難しいですね。どう頑張って書いても官能小説には勝てないし、勝ってしまうなら詩である必要がない、みたいな。
    日常にあるニッチなところを探りながらまさぐりながらいくのかな。ただ今回書いてわかったのはどんな場面においてもエロは人を魅了するということ。
    そして魅了されるものは人によって違うということ、それは「好み」とはまた違う次元であること、心の静寂と一体であること、などなど。何の話や。

  14. @たちばなまこと
    たちばなまことさん、コメントありがとうございます。
    頑張って書いたんですよ。本当に頑張ったんです。そろそろ死ぬまでに何をすべきか真面目に考えるお年頃になってきて、インプットとアウトプットにもう少し真剣に向き合おうと思って。
    自己満足かもしれないけれど、満足することもないとは思うけれど。なんちゃって。

  15. @足立らどみ
    足立らどみさん、コメントありがとうござます。
    舌は魚、素敵と言っていただけて良かった。最後の最後、ここだけが嵌らなかったんです、ピースが。舌は魚は決まっていたのですが、その表現を結構いろいろこねくり回して全然ピントこなくて。
    苦労して良かった。歯医者の診療台はルーチンばかりでつまらないかな、と思っていたのですがら足立どみさんがおっしゃるとおり、いろいろなドラマがあるのですね。

  16. @たかぼ
    たかぼさん、コメントありがとうございます。
    私も歯医者の診療台の上では眠くなってしまいます。昔みたいに凄惨な現場感はなくなりましたよね。
    歯科衛生士さんって、女性が多いなという印象です。歯科技工士さんは男性の方もそれなりにいる印象ですが。
    治療を受けながら、どんなにあがいても最後は夢のように終わるのかな、なんて思っていました。

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