五月の風は

オフィス街のビル群の緑の合間を
湿り気の少ない五月の風が通り抜ける

足早に歩くと汗ばんでしまいそうなので
自然歩幅は狭まり景色はゆったりと流れる

この風はどこか知っているところから吹いているに違いない
それほどまでにこの心地よい風を僕は知ってる

高床式のほの暗いほったて小屋のようなふたりの部屋に
昼間からまどろむ瞼の裏を細い糸のようなものが煌めかす

竹で編み上げた床や窓の隙間に差し込む陽の光は
コーエン兄弟のスタイリッシュなワンシーンを彷彿とさせるが
暗闇に銃弾の撃ち込まれる順に光が刺すようなものではなく
もっと絶対的に牧歌的なんである

起伏のない割と平らな島の舳先が伸びるように
潮の満ち引きで現れるあるひとときの砂洲

セブ島からスピードボートでわずか20分あまりでたどり着ける
何もなくて豊かな島には素敵な人々とこれまで感じたことのない風があり

その記憶は今もこの季節の束の間
僕の目を細めさせ
喉はカラマンシージュースを欲する

投稿者

千葉県

コメント

  1. 詩の世界がまさに映画で、アジア独特のそそられるチカチカを感じます。
    瞼の裏の糸の描写が秀逸です。

  2. 味わいのある情景描写がすてき。
    最終連があって、ああいい詩だなぁ、と感じました。すてきな記憶を私達に分けてくれて、ありがとうございます。

  3. たちまこさん、ありがとうございます。
    静かに目を閉じて瞼の裏をスクリーンにして楽しむ時間が好きです。

  4. こしごえさん、ありがとうございます。
    この季節の心地よい風は貴重ですね。
    16〜7年前の記憶を繋いだこの詩を投稿した後、ここに書いた島を調べていると、去年末ごろに大型台風の被害を受けたことを知り心を痛めております。

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