最期の日
「愛」という文字に留め置けなかった情動が、下水管を辿って、君に届けばいい
今、雨が降り始めたこと、不思議でも何でもない
低気圧があたしの胃腸を、ずっと掻き混ぜ、吐き気をもたらしていたから
いつか雨水路に落としたハーモニカが、雨の町に鳴り響く
紫陽花が咲かないままに梅雨がきてしまったこと、とても残念で
いつだって、寒い気がする、という幻
地図の読み方を知らないから、地図にない場所へもあたしは行けるの
西の空から遣って来る鯨は、闇を纏うて夜を報せる
炭酸水がただの水へと変わる頃、夜空へ向かって投身自殺しよう
白いワンピースを探している
プールサイドで聞いた笛の音が、今日も海馬で残響している
嘗て自らにつけた傷が、醜い
美しい命でありたかったと、思い出の中で叫ぶあたしは、拙い
絶望することでしか、道端に咲く花々に目を向けられないあたしはきっと、陳腐な存在
いつかの過去、あの子に虹の写真を送ったのは、あたしの虚空を埋めたいがための、独善的な自慰行為だったね
強烈なハッカ油の匂いが、デスクライトに群がった羽虫を殺める
空き家になってしまった隣家の窓ガラス越しに覗く、洗剤のボトル
そこに確かな生活があったことを、あたしは忘れられないでいる
同時に、その生活がいつか戻りくることを、求めて止まない
生きることへの懐疑が拭えないままに、大人になってしまって
覚え切れないパスワードの羅列を、ただ、眺めている
西の町では漸く雨が止んだみたいで、オレンジ色した夕陽が、この町にも降り注ぐ
夜が容易く訪れて、あたしはもう、行かなければならない
あたしは靴擦れした足で、空へ向かって飛んで行く
ワンピースの裾から、君に伝えたかった沢山の愛が零れ落ちて
地上ではまた、雨が降り出す
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