喪失と失踪

カフェイン四十ミリグラムがどれくらいなのか分からないまま、エナジードリンクを飲み下す
瞼の内側に飼っている第二銀河系で、隕石と金星が衝突をする
金星から零れた愛はオゾン層を砕き割り、地球へと侵入し、地球に愛が満ちる
眠ってしまわぬよう、意識して感情を文字にする
けれども活字にした途端、感情は逃げてしまって、私の内奥はいつまで経っても空っぽのまま
温かいミルクティを一口
ブルーライトによる身体への悪影響を理解しながら、今日も一身にその光を浴びている、室内灯は点けないままで
遊歩道沿いに咲いていた躑躅が色褪せてきて、漸く、春が死ぬことを思い出した
頭の中流れるショパン、ノクターン第二番変ホ長調作品番号九番第二楽章
緩やかに延ばされた左手の低音が、春の死を、拒む 生い茂った葉桜が、嘲笑うように風と踊る
立ち止まることを許さない強い南風が吹き始めて、私はきつく、瞼を閉じる
同時に、第二銀河系が、静かに幕を閉じる
少女だった時代、からかわれては恥じらいに赤くなった頬を隠すため、机に伏して眠ったふりをしていたあの子は、今、何をしているだろうか
なんて今更
欠伸が出て、第二銀河系だったはずの気体たちが、吐息を紫に色付ける
それは、幼い日に食べた綿あめによく似た色合い
ミルクティに薄められた胃液を吐瀉する
確かに繋いだはずだった手をほどいた、あの日の君
何かを訴えようと開いた口が縺れて、いつまで経っても言葉が喉につかえている
君と歩いた冷たい夜道がフラッシュバックして、床に落としたままだったピアスが足に刺さる
美しいピアノの音色は外耳から侵入して私の情緒を揺さ振り、容易く散ってしまう、まるで春の花みたいに
たった一人、立っている
ほの暗いフローリングの室内 一人ぽっち、立っている
生温い風が、カーテンを揺らす
君はもういない
春が逝く
あたしも、行く

投稿者

岩手県

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