夏至

夏至

白夜を描いた絵を観たことがある
北欧だろう
日本画家の作品だ
フィヨルドの水面が
薄暗い空色を映し蒼くさざめいている
夕刻とも明け方ともしれぬ光
水面の合間を林が繁る。
無為な時間だった。

暮れることのない日々
差し続ける光
ぬるい肉片のような
時折そんな時間を想像する
人々のざわめく繁華街の路上で
勤務先のオフィスの硝子窓を通して
偶然見つけた下町の路地裏で
小さな名画座の席に座って。

いつのまにか夏至を過ぎてしまった。
私は、もうどこにもいない。

投稿者

東京都

コメント

  1. 「ぬるい肉片のような」とは、なんて素敵な表現なんでしょう。
    最終連も印象的です。

  2. ノルディックな白夜の描写から、後半どんどん奇譚めいてくるあたりが何とも言えない。そして、最後に夏至は過ぎてしまった上に私はもうどこにもいないなんて。しかもこの作品が発表された日はまだ今年の夏至は過ぎていないという、、、摩訶不思議な雰囲気がより一層読む人を焦燥感とともに心地良く彷徨わせるんだよなぁ。

  3. @nonya
    nonyaさん、「ぬるい肉片」は、適切な表現かどうかずいぶん迷ったのですが、詩の中に入れてみました。…嬉しく思いました。

  4. @あぶくも
    あぶくもさん、丁寧に読んでくださりありがとうございます。日本画家は、東山魁夷です。「白夜光」という作品がありまして(とても好きな絵なのです)、この絵からイメージを膨らませていきました。今年の夏至は、6月21日です。…実は私、夏至フェチ?なんです。今から体中がぞわぞわぞわしています。

  5. 長谷川さんには その絵を言葉で描写できるだけの描写力がありますね。いつもながら思うけど、さすがです。
    そして、夏至の頃の空気感を思い起こさせる筆力もすごい。
    最終連、夏至を過ぎてしまった私(夏至)でしょうか。私は、もうどこにもいない。ここも好きです。

  6. @こしごえ
    こしごえさん、一枚の絵から膨らませた想いを言葉で描いてみました。白夜と、夏至は、どことなく共通したイメージが私の中にあります。空気感を想っていただけたなら、とても嬉しいです。まさに空気感を描きたかったのです。

コメントするためには、 ログイン してください。