森
多様である悲しみも、そして慈しみも、
うす暗い樹々のぬくもりが交わす、
〈蜜ごと〉のツタやウルシ、ヤブガラシ、
君はやるせない蔓と落葉の中、
みじかくも溢れ来る、さいわいの時間を見つける、
身から出て来て、魂から抜け出て来て、
粗野な枯れ枝から、傷つけられても、
呼ぶ声、森の奥から、ブッポウソウの偽りの声、
愛らしい瞳の花が斜面に咲く、
多様である喜びも、しつらえられたアデンの園、
興味深く、朝のしじまの中に聞く、
鳥の声は君のはかりごと、ありありと聞く、
昆虫の羽音、一息に通り過ぎる雨、
杉の葉のさらさらと、なにごとか告げる朝、
きらめく露の七色の、
わたしはすべるように山道を下り、はや、
湿原のカヤツリグサの方角を知る、
乱れた草、乱れた心、それらは、
立ち昇る霧の中に虫のように、
乱舞する、モデラート、奇妙なシグナル、
いわば世界の岸辺から、望むものはすべて落水の中、
捕囚となり、道連れとなり、慰めも何もない、
するどくとがった花弁、肉体へと貫かれる、
容赦のないベルの響き、その響き、
そしてわたしは感応する、言葉へと、
そして信じるだろう、分離された地理、
災いとともに成長する感傷の痛み、それらを、
とどめたままで、ウマノアシガタ、細いアシナガバチ、
それらは皆、あしわけの民族の故郷へと、
舞い戻る、
わたしは金色のペンを持ち、
その描こうとする世界は霧雨の中に、
世界は今も、霧雨の中に、
高い梢の先には陽がさしている、
そしてすべての行動は彼等の少ない期待とは、
別の場所に降る、
雪がふり、夜を通して雪はふりしきり、
もはやわたしは部屋を出ることもできない、
そのまま森の中の一角の、さだめられた暖炉の前、
このまま読み尽くされた〈物語〉、
しんしんとしみわたる冬の森、
春が来るまでは、
君をそばにして、
輝く星空だけを知る。
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