愛について

ひどく混乱したまま、
阿Q正伝、人民のまぼろしを見た、
ふところにしのばせた、暗殺の白紙につつみ、
何時間もそこに立つ、
ひどく愛していますと言いつのり、白樺の木には及びもしない、
プラタナスよ永遠に、
清き魂は雁がねの、あぶく立つあらいざらしの、
くちづけを求めておまえの頬をつつむとき、
アブラギ、あぶあぶと、おさないものは告げ歩く、
兵庫の港の開かれて、今朝はフランスの蒸気船が走ります、
開闢以来の珍事にして、幼き稚児らは泣くばかり、
アンダーヘアーのさわさわと、
日本の娘がさわさわと、
アルカイックスマイルと思えばそれはそれ、
葦原は開かれてゆくと言う、葦原は靄の中に、
たたずみて、岸辺から女体の岸辺へと舟は出る、
桃割れの、しみずはぷちゃぷちゃと、
散華衆は色とりどりの花を散らす、青空へと、
もったいなくて、清水は暗いうちに井戸へ行く、
オルガンは泣く、泣きながらオルガンは泣く、
〈ふぉーく〉と〈ぎたー〉と〈ダイナマイト〉、
門を出て東へ歩く、一番初めに出会った人に道を聞け、
解決された問題の初めに還って、問いを見る、
はすかいに行く時には、羅漢さんのお寺があるところ、
池の蓮の花はもうおしまいです、
愛のように枯れて立つ茎がいっぱいあるから、夕暮れの池、
ながながと書かれた〈恋文の〉、
もう少しだけ手をのべて、わたしの気持ちの〈恋文の〉、
しんとしている夜の方へとむかっているわ、
ケシケシと鳥の声がする、
方位を知る月の出の、林の上の月は丸い、では、
ちょん、ちょん、ちょん、
銅鐸は池に沈みゆく、
肉体とともに沈もうとする、ちょん、ちょん、ちょん、
わたしの頭巾はどこにある、ねえ君、
こんなにどろんとした夜のことだ、
眠れない夜のことだ、肉体のあわれなる、
奇妙な夢の繰り返し、
ゴンドラの上で見る夢だ、上海の、低い空の、
さあ〈愛について〉卓を囲んで語るとするか、
なげだされた足の性懲りもなく、すべての実現は足のままに、
愛の歌を聞きたいと愛の言葉を聞きたいと、
しっかり抱いてくださいよ、
うんとしっかりその腕で、わたしを抱いてくださいね、
ツモロウ・ツモロウ、瀕死の男を可哀そうだと思って、
葦の原、みずぎわの、葦の原、ぬれていく、
いとしいあなた、いとしいあなた、なんどでもよびましょう、
かえるや、へびや、しぐれまで、わたしのからだをひやします、
あいについておしえてください、
あしはらの、あしはらの、
つめたい足をなぐさめて、
くらい月夜の、みにしみる。

投稿者

岡山県

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