アメリカ
カフカは、『アメリカ』を書いた
その満たされないあいまいな世界へようこそ
全力であいまいさを獲得する
旅客機が飛び立つ、さわやかな九月の空
老人の朝の散歩の時間がいつもの公園の樹々の葉が
少年よ、アメリカへ行け
君たちは未来を信じるべきだ
さまざまの国を出て、異国の港につく
そして求められる者になり、そして求める者となり
描かれた未来の少しでも前進するのだ
旅客機は目的地をめざし高度をあげる
老人の眼はすでに霞みつつある
薄茶いろの世界へと
けれどもここの池に乱反射する光
濃い緑、しっかりとしたベンチ、走る若者たち
すこしばかり老後のために蓄えたもの
それらは九月の光とともに彼のものだ
カフカの『城』の中では主人公はたどりつけそうにない
ながい自分語りの中ではわたしは食事にさえ
たどりつけないのだ
そして
ここはニューヨークである、城はどこにあるのか
老人の頭の中はすでにあいまいである
朝食に食べたであろうものがあいまいである
走る犬は彼に噛みつこうとしている
しかも犬の歯はすべて幻である
もし犬が彼の首にかみついたなら
カフカは『アメリカ』の一場面としてその光景を
つつがなく描いたであろう
いま旅客機の中では彼等が動き出した
今日はアメリカ晴れである。
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