心洗

心洗

しだいに
紅葉が深まってくる。

動物園通りの片すみに
ツワブキが
茎を伸ばしていた
まもなく蕾を膨らませる。

不忍池辯天堂に一礼し
手水舎で手を清める。

石造りの舎に
「心洗」という文字が
彫られている。

心で洗う
心を洗う

少し迷った。

指を濡らしたまま
手水舎の先にある
枯れはじめた蓮の葉を
眺めた。

もう一度
濡れた指の感触を
たしかめる。

心を洗う
心で洗う

枯れた蓮が
風になびいている
迷いの虚をふと突くように
季節は細かく、あわく
目の前で砕け散って

ツワブキの
落ちついた黄色の花弁を
久しぶりに想う
今年も神無月が過ぎていく。

ゆっくり手を拭い
辯天堂に参拝をした。

投稿者

東京都

コメント

  1. 季節をはじめる植物、季節を終える植物、それらへの向けられる心がやわらかいです。
    季節が砕け散る蓮の表現が好きです。

  2. 参拝する前の手水舎での一場面を切り取った詩が(と、お写真も)素敵ですね。心を洗う、心で洗う、なるほどと思いました。私も今年の夏に神社に行きましたが、コロナ対策で手水舎は覆いがかけられ、残念でした…
    ありがとうございました。

  3. それまでの静かな流れを一気に断ち切るように砕け散る季節の連がたまらないです。そこから最終連にかけてたたみかけていく感じがいいですね。

  4. コメント失礼いたします。

    迷い。
    もやもや。
    ぐるぐる。
    の、ときに、一石投じられた波紋のような。
    そんなイメージを抱きました。
    うれしい気持ちになりました。
    その感動が、気づきが、ほろっ、とほどけるような、笑みが、喜びが、浮かぶ心地がいたします。

  5. 読んでただけで心が洗われました。ありがいことです。

    不忍の里で手洗い秋ふかし

    **
    大田区だったら、

    足洗いかってきたよと晩のメシ
    洗足池の勝海舟に(手を合わせ)

  6. 「心洗」という文字から、心を洗う 心で洗う、ということを思う長谷川さんの詩心がすてき。
    枯れた蓮などを見て思いを寄せることもすてきです。
    この詩に流れている魂の水のようなものがこのすてきな写真と相まって、この詩に味わい深い優しい力を宿らせているように感じます。
    あと、これは蛇足かもしれませんが、述べます。迷いが無ければ悟りもない、という言葉をどこかで読みました。それはそうかもしれないと思います。しかし、私の人生迷いばかり。でも、その都度その都度迷っては観念しているとも言えるかも(かも)しれません。
    人は醜い、けれど人生は素晴らしい、というようなことを言ったのは誰でしたか。人生って(俯瞰してみると?)面白い。

  7. 先日上野に行ったのに、飲み歩いてばかりでそちらまで足を運ばずに帰って来てしまった。心洗、しに行かなきゃ。
    さて、何で心を洗おうか。心で何を洗おうか。
    そんなことを問いかけてくれる詩でした。

  8. @たちばなまこと
    たちばなさん、夏から、秋へ、そして晩秋へ。季節の移ろいの中で、終わっていく花と始まっていく花を重ねたところがありました。季節には常に敏感でいたいですね。…砕け散る、という表現は、ちょっと思い切ってみました。

  9. @さはら
    さはらさん、不忍池辯天堂も、少し前まで、コロナ禍のため水が止められていました。最近になって、再び使用できるようになりました。手水舎に水があると、ほっといたします。舎に彫られた「心洗」という言葉が印象に残りました。

  10. @たかぼ
    たかぼさん、砕け散って、という表現は、ちょっと思い切って使ってみました。そういうふうに読んでいただけると、とても嬉しいです。季節の鋭敏さを表現したかったんです。

  11. @ぺけねこ
    ぺけねこさん、ありがとうございます。
    …そうなんです。
    迷い。
    もやもや。
    ぐるぐる。
    上手く言葉にできないような感じがありました。詩というのは、そういうものなのでしょうね。そのもやもやを言葉にしていく、…というのかな。

  12. @足立らどみ
    足立さん、すてきな句ですね!
    大田区ですと、池上本門寺、そして洗足池…。どちらも、まだ訪ねたことがありません。ゆっくりと歩いてみたいです。散策にはよい季節を迎えていますね。

  13. @こしごえ
    こしごえさん、ありがとうございます。迷いが無ければ悟りもない、というのは、わかります。私も、迷いばかりですね。というより、人間の宿命かもしれない。観念しているところもありますし、諦めているところもありますし。でも、時々ですが、良いこともあって、それで何とか今を生きています。自らを客観視することは大事ですね。俯瞰。…鳥瞰でしょうか。

  14. @あぶくも
    あぶくもさん、岡本太郎展、観に行かれたんでしたね。それと、せんべろ?でしたか。不忍池は、蓮の季節が終わりましたが、葉は、まだ残っています。晩秋から初冬にかけての上野もよいです。…お清めの水が冷たくなる季節ですね。

  15. ツワブキには「謙譲」「困難に負けない」という意味の花言葉があるそうです。作品からそんなイメージを受けました。

  16. @渡 ひろこ
    渡さん、ツワブキの花言葉、初めて知りました。晩秋から初冬にかけての花は、ひかえめに、けなげに咲くように思います。「謙譲」というのは、よくわかります。

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