碁石を置く

あなたが黒をここに置く
わたしが白をそこに置く
囲ったつもりが 囲まれて
してやったりも してやられ

あなたが笑いながら白をふたつ置いたので
わたしも何も言わずにまた白をとなりにみっつ置く
あなたはさらに白をあちらこちらに置きたがるので
わたしも羽を伸ばすように意地になってとびとびに白を置いたりする

雲ができあがったのかと思ったら
それは雲ではない 地図だという

あなたは次の番で白をおでこにのせて空を見上げていたから
となりにだだだだっと息子がやってきて
わたしの番をすっとばして
白を転がして山をつくる
ぼかーん だとか ずがーん だとか
音を入れる

娘は碁盤をひっくりかえして立てることにした
その足先に黒白セットでつみあげる
ふるふるしながら上にみっつならべようとして
崩れる
間に指で線をひいて おはじきして ポケットに入れる

のそりのそりとやってきた犬は
ぺろぺろ くんくん くんくん ぺろぺろ
する

わたしは息子の山のなかから白を取り出して
顔をかきはじめた
あなたは黒を水でひたひたにする
わたしは森でひろってきたどんぐりをならべる
あなたは西瓜の種をならべる
わたしは浜辺でひろったガラス瓶をななめに置く

おひさまは西からぬーっと伸びる影を置く

ヤドカリは歩いたかと思えばぴたりと止まる
息子はヤドカリとだるまさんが転んだをはじめる

あなたはまどろんでいる(みたい)
娘は砂浜に枯山水をつくる(みたい)
犬は本当の水を求めてびちゃびちゃしにいく(みたい)

おひさまはお月さまと交代する時間を話し合う

投稿者

千葉県

コメント

  1. 日常の風景が徐々にシュールになっていきますね。

  2. 囲碁のルールがわからないので、それもアリなんだ、と思ったら、宇宙になってました。

  3. @たかぼ
    さん、ありがとうございます。
    ロックな家族ですね。

  4. @timoleon
    さん、ありがとうございます。
    そうなんです、初めからこの家族は囲碁なんてやってなかったですね(笑)しかも、私も囲碁のルール知らないです…

  5. 絵本のような展開、趣を持ってすてき。
    なんでも盤に置いちゃうところ、きゅんとしました。

  6. めちゃくちゃベタなこと言いますが、詩における飛躍って大事ですね。

  7. @たちばなまこと
    さん、ありがとうございます。
    絵本みたいでしたか、なんかそれはそれで嬉しいですね。なんでも盤に置いちゃうし、盤すらも関係なくなっていって、それを誰も指摘すらしないで当然のように進んでいくんです。

  8. @トノモトショウ
    さん、ありがとうございます。
    詩の中くらいは自由に飛躍していたいなとも思いますね。詩表現としての飛躍は、かつて佐藤宏さんも『鯨』の詩のコメントの中でおっしゃっていて、なるほど確かにそうだなぁと思ったのでした。

  9. 最初は、男女の恋の駆け引きを囲碁に喩えているのかな、と思っていたのです。そのうちにだんだん詩の世界が飛躍してきて、おおおお、という感じになってきました。…たしかに、ひとつの宇宙を彷彿させますね。不思議な読後感でした。

  10. @長谷川 忍
    さん、ありがとうございます。
    どんどんおかしくなっていく感じ、というのは自分の中で好きな展開なんですね。おかしくなっていき方によって、いろんな種類のものができあがる。いろんな読み方をしてもらえて嬉しいです。

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