蠍
「なんで言い出しっぺのアイツが来てないんだよ」
「またどっかで先に一杯ひっかけてから、わりぃとか言いながら遅刻してくんじゃないの?」
「しかしおれらすごくねえ?あん時一回切りのステージから四半世紀近く経って再結集ってなんか同窓会みたいだな」
「みんな全然変わんねーじゃん、いや腹と頭皮の具合は変わったか」
「世の中だって何も変わんねーじゃんな、あの頃から騒いでたシンギュラリティって結局何のことだったんだ」
「でもあの巨大化したフナムシも結局絶滅したってニュースはなんか空恐ろしい感じがしたよな」
「そう言えばアイツ、香港の最後を見届けるんだって近々現地に旅立つようなこと言ってたわ」
「結局変わってないのはおれらだけってことなのか」
タガメは待ちきれないと言うようにバーカウンターみたくハモンドオルガンに腰掛けてラフロイグを始めている
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ファファファファー ファファ ファファファーファー
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「なぁ、世界中の人がおれら日本人と同じ暮らしをしたら地球何個分必要になるか知ってるか?」
「なにそれ」
「2.9個だってよ2.9個」
「すげーな、今から火星行っても足りねーな」
「あとさ、今の世界人口わかる?」
「確か80億くらいだよね、来年あたりにインドが中国を抜くとか…」
「すごいじゃん。じゃあ、おれらの親世代が生まれた頃は何人だったか知ってる?」
「さぁな、それは聞いたことも考えたこともなかったな」
「約半分の40億くらいだったらしいぜ、この50年くらいで倍増したってわけさ。でも地球はふたつになったりしてないし、資源だって分け合うしかないのに、そんな中、先進国は地球3〜5個分の暮らしをしてるってわけさ」
蟋蟀が打つクールな相槌は突然上達したオブリガートを彷彿とさせる
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ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ ドゥル
ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ ドゥル
ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ ドゥル
ドゥ ドゥ ドゥ ドゥ ドゥル
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「じゃあ、ボーカルはおれで、ベースは蛹な」
「いいけど、ドラム叩けるやついるっけ?」
「イナゴでいいんじゃない、8ビートでバスドラ2パターンと少しだけオカズ入れられればとりあえず何とかなるよ」
「意外と求めるじゃん」
楽器も弾かない癖にアイツは自分の結婚パーティーを前に張り切る
「ところでさ、このカオサンロードの屋台で売られていそうな虫の名前で行くのやめない?しかも何かおまえだけ格上みたいな感じも気になるわー、ま、おまえが主役だからそこは譲るけどさ」
「まあ、時代は昆虫食だからな、食糧危機を乗り越えるんだよ。そうそう、バンド名ももう決めてある」
「何だよその古き良きジャーマンメタルみたいなバンド名は。しかもおまけみたいに付けてるデス・ロックってそのロックはRじゃなくてLだろうが、それじゃプロレスの必殺技じゃんか」
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トュトュ トュウ トュ トュ トュ
トュウ トュウ トュウ
トュトュ トュウ トュ トュ トュ
トュウ トュウ トュウ
トュルルトュウ リュトュウトュウ
イェイ イェイ
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「みんなよく聞いて。あの銀座のさ、天使が通りを覗き込んでるビルわかる?」
「わかるわかる、ちょうどあの頃ビルの建て替えがあったけど、ちゃんと戻ってきたあの天使だよね?」
「そう、それはいいんだが、今日あの角曲がったところでさ、アイツ倒れてたんだって、ちょうど天使に見守られる形でさ」
「え?どういうことだよ」
「駆け寄った時にはもう息がなかったって」
「アイツまさか、、、自分の…で逝ったのか?」
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デュウルデュッ デュルデュ ドゥッドゥー
デュウルデュッ デュルデュ ドゥッドゥー
デュウルデュッ デュル デュル デュル デュル
デュドゥドゥル ドゥッドゥー
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コメント
「ショート・ピース」あたりの初期の大友克洋のマンガを彷彿とさせる、青春の、悪友たちの、絶え間のない会話劇。とても良い雰囲気です。でも蠍はどこに? まさか最後に(自分の毒で)逝ったアイツ?
流れるような会話が絶妙です。間に音楽?が鳴っているのもおもしろい。
あと、地球環境のことを言っていて、そこになんだか妙に哀愁を感じます。
「アイツまさか、、、自分の…で逝ったのか?」ふふ。
間奏はマイケル・シェンカーで再生されました。
言い出しっぺのアイツ、逝ってしまったのですか。屋台の虫のくだりで声を出して笑いました。
「意外と求めるじゃん」という台詞がなんだか刺さってしまい。普段から人に求めないことの難しさを痛感しています。
バンドってエモーショナルですよね。
自分の毒でぇ!
やばい、言い出しっぺの俺がまだ投稿していないという現実と重なり
めちゃくそ楽しめました!
ありがとうございます!
@たかぼ
さん、ありがとうございます。
2045年でも仲間内の会話は大して何も変わらない未来から始まっています。蠍だけ現れていなかったんですねえ。
@こしごえ
さん、ありがとうございます。
間に鳴ってる音楽は実在するものを頂いてきて、時間や場面を転換するのに、さしはさんでおります。
@トノモトショウ
さん、ありがとうございます。マイケル・シェンカーの何が鳴ってだんだろう気になる。こう言うのは書かない方が良いんだろうけれど、私の中では、①トーキング・ヘッズ②ルー・リード③④はビートルズ、が鳴っておりました。
@たちばなまこと
さん、ありがとうございます。大喜利みたいな気持ちで、蠍から連想するものの、1番目から4番目くらいまでを捨ててから書き始めました。2022年の自分の結婚式で自分たちのバンド作って演奏しようとアイツが言い出したんですね。
@トノモトショウ
ああ、先のコメントは、デス・ロックまで付いてしまったバンド名から連想してくれてたのですね。間奏に対するコメントかと勘違いしました。結婚パーティーで演奏したのがこういうのだったら良いな。その名もBugs。今思っただけなんだけど(笑)
https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DZ06evO3JzYnD?si=hPD4tuPpQu67QIyoqcWXsg
@那津na2
さん、ありがとうございます。
あ、言い出しっぺ、ここにいた!「満を持して」いるとかいないとか。出す前にハードル上げるなって?冗談です、いや、みんなのがすごくて面白い企画ですねえ。
お題提出に参加して楽しんでる感じが伝わってきました。
@足立らどみ
さん、ありがとうございます。
そうですね、楽しんでやってみました。らどみさんのYouTube、梅愛がすごい熱量で伝わってきました!
@あぶくも
あー、なるほど。
①はPsycho Killerで、②がWalk On The Wild Sideか。ビートルズがまったく見当つかない。
@トノモトショウ
正解。ビートルズは、
③Mother Nature’s Son
④Rocky Racoon
いずれもポールです。
私には、たぶん、絶対に書けない蠍詩です。
おおお、そういう感じで来るか、と思いつつ、けっこう楽しんで読みました。
「意外と求めるじゃん」
このセリフ、何気に効いています。
ラスト、どう落とすのかなと思っていたら、上手く落としましたね。お見事。
@長谷川 忍
さん、ありがとうございます。
擬人化したアプローチでもなく、単に20数年前の2022年に間に合わせで組んだバンドのメンバーの呼称。後々までその呼称をあだ名のようにしてずっと呼び合う仲間の再会。一人だけ再会の場に現れなかったメンバーが当時の主役、ボーカルの蠍。彼はなぜ現れなかったのか。その後どんな人生を歩み、どんな最期であったのか。自分の…で逝くとはどういうことなのか。コミカルでミステリアスな雰囲気でマジメに切なすぎない締めとなれて良かったです。この企画に作り手として最大限に楽しもうと臨みました。