真冬・空を真似る営み

呼吸をさまたげるぬるい真綿と
つめたいくさび
命には届くまいと言い聞かせて
悲しみが訪れてくれるのを待つ
何もかもを涙に流せる静謐

繰り返しの記号がとめどなく
胸腔を破ろうとさわぎ
神さま、ぼくはいけない子どもだった
でしょうか
赦されない罪はどこからくるの
でしょうか
手首に巻いた聖母のかたちの装飾を
なぞるための指先は指先から失われ
何もかもは架空
この鼓動さえも雪色の幻視にすぎないとしたら
輪郭を作り替えられてゆく痛みは
どこまで追いかけてくるだろう?

ただしく交易されるはずの気体たちは
行き先を見失って
母をさがす乳飲み子の声で
けだものに食われるときのけだものの声で
光をなくした貝殻の孤独
たいせつなものは何だったかしら?
一番に好きな歌も思い出せない
ひどい混沌のはずなのに
靴音だけが整然と行軍してくる
先端を連ねた刃物の群れ

忘れたはずの悲しみが怖い
でも今だけは 同じ悲しみがくるのを待つ
風のこぼれる刹那に
雪を溶かすための熱量が運ばれてくるのを待つ
左胸には右腕を その上には左腕を重ねて
確かな輪郭が戻るのを待つ

投稿者

東京都

コメント

  1. 「営み」が新鮮。めくるめく

  2. “けだものに食われるときのけだものの声で”
    秀逸だなあと思いました。
    音楽を演るひとの詩ですね。

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