ひかりの冬、はじまり、ひとつ。

                    
ひかる夜のはじまり月の余韻に雪のかけ橋多摩のよこやま
                                                      
ゆきかうひとたちが家路につく
荷物と引きかえに流れ去る喧騒
遠く暮れるまちなみ
新参者のたばこのにおい

膝にまどろめ穢れ無きいのち
やわらかさが覆いかぶさる
新しいイグサの香り
降りそそぐ温い眩暈

車の音、と声をこぼせば
波の音みたい、と返す
湿り気に閉まるドアは打ち上げ花火
ひとみの火花で灯る
冬の柱
白いかがり火
ひかりの祭り

おなかの中に満ちる閃光
ひとつ、ひとつ、またひとつ、と
確かなかたちを教わるように
まぶたを開ければしなやかな弓越し
真白の太陽の君臨を
まばゆい放射に暦を刻む
知らなかったくるしさ
泣き顔を引き寄せて
こぼれた砂粒が敷かれてゆく
腰を落とし向かい合い
背中から落ちる皮膜たち
寒さに服飾を纏ったまま
からまる洗濯物
毛穴と麝香がたちこめる
                                                         
ことばなら。
はかなさつよさいとおしさからだの奥にしみわたり鳴く
                                                         
ふるい土地に立つ新しい生活
ひとつのはじまりに
ひとつの佇まいになれたこと
ひとつの思い出になる
永く生きるちからになる
首元のストールに手を添えて
霞む丘陵を縫って走る
月は冠を冬の星空に広げ
ふるさとの針葉樹に
まだ見ぬ雪の溜め息を飾っている
                                      

投稿者

東京都

コメント

  1. 母性的な視点で書かせたら右に出るものがいないですね。クリスマスあたりのひかりに溢れた冬の情景から、ごく自然に母性の内面としての心象風景へと読者を誘います。短歌からはじまるところなど、単なる抒情的な詩にとどまらない現代詩らしい構成の妙もありますね。巨匠の風格すら漂います。

  2. 言葉が雪のように降って、また溶けていく、そんなリズムを感じています

  3. 万葉の世界から現代に飛び出してきたような。世界に引き込まれるとはこういうことなのかと思うほどに、どこまでが現実の日常でどこからが心象風景なのか、その境目を見事にするりと行き来する。冬の母子の優しい姿が見られそうで、多摩のよこやまを散歩してみたくなりました。

  4. @Yatuka
    さん。とても素敵なコメントありがとうございます。
    あたたかいものを無くして痛みを抱えた同士が、またあたたかいものを得るおはなしです。無くしたことがある人は離さない術を必死に探すのでした。
    適度に雪が降る地方の冬が好きです。あたたまりにゆく理由が幾らでも見つかるので。Yatukaさんの手にもあたたかさが収まりますように。

  5. @たかぼ
    さん。めちゃめちゃ褒めてくださり光栄です。短歌に触れてくださったのも嬉しい。どうも、ものや現象に情を持たせたい性分のようです。産む感覚に似ているのかも?いろいろな人から譲り受けた母性だと思います。自分も譲り続けたいです。

  6. @timoleon
    さん。リズム感じてくれてありがとうございます。関係ないけど音も無く落ちてくるぼたん雪を眺めていると、高校の教室の窓の外を思い出すんだよね。

  7. @あぶくも
    さん。こちらが赤面する程褒めてくださりありがとうございます。万葉のひとたちが書き残してくれたように昔から色恋は素敵だし子どもはかわいいので我々はここに在れるのだろうなあ。
    多摩のよこやま、初夏に2度ほどハイキングしたことが。山のトレーニングやトレランの人も結構いました。稲城市から町田市まで歩けます。

  8. 冬のはじまりの光と音の描写がとても印象的でした。
    新しいふるさとで力強くしなやかに暮らす姿が眩しいです。
    「ひとつの佇まいになれたこと」
    そういうことなんだよな、と何度も頷きました。

  9. @nonya
    さん。しんみりと柔らかいコメントありがとうございます。
    「」で書いてくださったところ、作者にも思い入れがあるところで嬉しいです。
    力強くしなやかな真似事がいつか本物になるようにと生きています。

  10. 最終連、惹かれました。

    ひとつのはじまりに
    ひとつの佇まいになれたこと
    ひとつの思い出になる
    永く生きるちからになる

    その土地、その街の佇まいになれたこと。作者のたしかな温もりを想いました。暮らすって、そういうことですね。

  11. @長谷川 忍
    さん。惹かれてくださりありがとうございます。
    私も街が好きです。
    街は人。
    人はたからもの。
    大切なものを真っ直ぐ大切に扱う姿勢、温めて続けようと思います。

  12. 〈おなかの中に満ちる閃光
    ひとつ、ひとつ、またひとつ、と
    確かなかたちを教わるように〉

    この詩行に命の瞬きを感じました。

    喪失と再生を織り交ぜ、力強く生きることが人生なのだと、示唆に満ちていて、教えられた思いです。

  13. @渡 ひろこ
    さん、いつも丁寧に読み解いて感じでくださりありがとうございます。甲本ヒロトさんがNHK の番組で、命は無くなるのではなくて作り直されるんだと思うんだよねと言ってたのがすてきでした。次の命の糧になって永遠に生きてゆくんだと。
    ちなみにサカナスターです。カブトガニのコスで。

  14. たちまこさんの詩

    目に見えて映る景色と、今触れているみたいな布とか服とかの手触りと、女性のしなやかな声の交わり
    素敵です

  15. @イチカワナツコ
    さん。すっかり返信遅くなってすみません。

    はじまりはいいなと。分解して並べたらそれぞれにはじまりがあるので無限はじまり出来るなぁとか夢想中。
    惹かれる声ってありますよね。

  16. 前衛短歌を思わせる一行目から、身近な生活が奏でる何小節かのメロディーを辿り、自然と招かれて行った先は遠いあなたの故郷の宇宙だったような気がします。。

  17. @babel-k
    さん。ありがとうございます!1ヶ月越しの返信でごめんなさい!
    故郷の宇宙ということば、いいですね。
    メロディに例えてくださったのが嬉しくてにんまりしています。

  18. コメント失礼いたします。

    みなさん、コメントで語り尽くしてしまっているとおもうのですが、ぼくは、「かっこいい」っておもいました。
    和歌とか万葉、古語などほとんど触れたことがなくて、実はこちらの詩を拝読して、ほそぼそと興味がでたり、です。
    うちよせたり、発光したり、降り重なったり、自然が浮かびました。

  19. @ぺけねこ
    さん。コメントありがとうございます!
    かっこいいだなんて最上の褒め言葉ではありませんか。すごく嬉しいです。
    いにしえのうたは私も現代語訳付いてないとよめないのですが、蘇らせたい言葉を拾えたりして楽しいです。

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