トラウマ

「吐」

薔薇色の二酸化炭素
パッチワークの嘘
賑やかな流動体
ビタースウィートな溜め息

悩ましい亀裂から
漏れ出す黒い臭素
歪に膨れ上がる
柔らかすぎる容器

吐き出さなければ
明日を吸い込めない
アヒル口の安全弁は
疲れ果てている

「裸」

脱いでも脱いでも
まだまだ着ている
本当は私って
厚着のストリッパー

リン酸カルシウムの枝に
タンパク質のスーツを掛けて
コンタクトレンズを探す姿勢で
裸の自分を探し回る

CT でも
MRI でも
見つからない裸の自分は
もはや細胞の床の間に飾られた
二重螺旋の中にしかいないと

毛皮の上に裸を着た飼猫が
教えてくれた

「憂」

雨の3連休明け
決まらない前髪
星占いは最下位
乗り遅れた区間急行
凹みに負の水溜り
低温のオハヨウ
取ったのはクレーム電話
冷め切ったコーヒー
重力を感じる
束の間のランチタイム
後悔のようなカレーうどんのシミ
砂を噛みながらのルーティン
致命的な誤変換
進む時計の長針
進まない時計の短針
帰れそうもない
でも何処に帰るの?
盗み見るスマホ
トラウマが口癖の友人
幸せそうだ
15画の溜息を飲み込んだら
夕焼けの味がした

「魔」

プライドの木陰に吹く
臆病風
コンプレックスの裏地に潜む
独裁者
スピリチュアルの海を彷徨う
豪華客船
ダイエットの踊り場で待つ
スイート・トラップ

人の心の
いちばん柔らかなところに寄生して
人の心の
あらゆる欲を嘗め尽くそうとする

魔はしょっちゅう差し
人の弱さとともに生き続ける
好事魔多すぎて
人の甘さを際限なく伝播していく

途方もなく長く緩やかな
パンデミックのはずなのだが
自覚症状はほとんどなく
重篤化する傾向もないので
有効なワクチンが開発されたこともない
(というか治す気がないのだろう)

おそらく
うまく手懐けて飼い殺すことが
生きていく
ということなのかもしれない

投稿者

東京都

コメント

  1. 四編の作品が、付かず離れずという感じで絡まっていますね。一編ずつ、独立した作品としても読めます。「裸」の詩に惹き込まれました。脱いでも脱いでも、見つからない、裸の自分…。「憂」の詩にさり気なく「トラウマ」という言葉が入っていますね。上手いです。

  2. @長谷川 忍 さん
    >コメントありがとうございます
    漢字一文字のタイトルで書いていた時期があって
    この詩はその時のなごりのようなものです。
    画詩にしようか迷ったのですが、しなくて良かったです(笑)

  3. 素敵なフレーズがたくさん。

    営業電話をいなすのがちょっと楽しいこの頃です。

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