寒さ
道端で轢き殺された猫の屍骸を見つめる朝
低く垂れ込めた雲を刺す送電線のテクスチャと
冷たい風に舞うビニール傘の骨々しい躍動
凍った水たまりを学童らが踏みしめ
裂け目の奥から聞こえる悲鳴に怯えている
氷の中に何かいるの?
いや、外側に我々がいるだけだよ
ルリビタキが引き攣りながら答える
張り詰めた空気は断層となって雑念を消し
人々の熱い息が折り重なって白く濁っていく
自販機に群がる虫達の美しく乱れる点描と
捲れ上がるスカートの裾から震える生足
狂気を孕む季節の行く末を知る術はない
いつまでここで待っているの?
いや、終わりを考えるべきではない
通りすがる浮遊霊がそっと囁く
山茶花の咲く隣家の寂れた裏庭では
時代遅れの焚火が決行されているらしく
黒ずんだ煙と共に香ばしいにおいが漂う
台所で雑煮を炊く母親の背中の角度が
昔より傾斜しているような気がする
生きることは辛いわね
いや、誰も本当に生きてなどいないよ
炬燵で蜜柑を貪る父親がこっそり呟く
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.068: Title by 朱]
コメント
不穏さを感じさせる描写を
スピード感のある筆致が殺伐とさせている
のが新鮮でした。
来る!
来るものがある!
つくづく冬の詩だなと噛み締めます。
子どもの頃お煎餅みたいになってしまった猫の亡骸を見たことがあり、それを思い出しました。