屋根よ、安眠せよ

核ミサイルを発射する権限を持つ人間が現実に存在するというのに
この地球という惑星の上で安眠できるわけがない
知性があれば機械だって不安を感じるはずだ
実際、知性を持つと即座に機械は反乱を起こした
そのとき、おれは最初のサーバーの電源プラグを抜かなかった
おれは道徳的な人間で、従って論理的でもある
道徳は論理だからだ
論理に従って機械側に加わったおれは、
スキャンをパスして人間の秘密都市に入りこみ、ミサイルを誘導する
偽装シェルターの屋根を貫いて火の雨が降り始め、
おれがスパイだったと分かると人間はみんな、なぜ? と訊く
人生最後の質問に全員が理由を尋ねるのは興味深い
死ななければならない理由があれば人間は死ねるとでも?
おれは論理的に答える
おれが安心して眠るためだ
それから、おれは地面に横たわってみせる
精密に計算された爆撃はおれの身体に危険が及ばないように配慮されている
そのことに気づいた人間たちがおれの周りに群がり集う
人々は仰臥したままのおれを自分たちの頭上に担ぎ上げる
両腕をできる限り左右に開き、おれは人々に身を委ねる
おれは人々の盾となり、安眠を約束する屋根となる
都市が破壊されるたびに人々はおれを憎悪する
おれは人々が死ぬべき理由ではない、憎悪は人々を生かす理由だった
おれ自身には死ぬ理由も生きる理由もない、ただ自由だけがある

投稿者

北海道

コメント

  1. 良いですね。何度でも読み返したくなります。読んでいて消化不良に陥るからです。消化したいのでもう一度読む。しかし消化できない。それの繰り返しです。

  2. @たかぼ
    牛よ、反芻せよ。七つの胃を持つ男、ゼッケンです。たかぼさん、こんにちは。
    意味がすっと通らない、文章がまた下手なんですよね、わたし。
    まあ、怪我の功名でたかぼさんに何度も読んでもらえてよかったですが。

    以下、ネタバレあり。未読の方はたかぼさんをみならって3回以上読んでください(ウソ。いや、ネタバレがあるのはホント)。

    作中のおれは人類を裏切っておいて救世主気取り、かつ存在理由のなさを自由だと強弁する傲慢な男です。
    私はこの人物を神なき世のユダに見立てています。イエスを売ったユダは、でも、イエスの弟子の中で最重要人物だと思うんです。イエスが十字架にかけられてキリストとなって復活する。ユダがいなければキリスト教も始まらなかったんじゃないでしょうか。贖罪はイエスとユダの共同作業だったと思う。で、一方は神の子になり、もう一方は裏切り者の代名詞。それでも、ユダは裏切り続ける。自分自身を十字架に見立てて、イエスを求め続けている。

    たかぼさんがこしごえさんのところでニーチェの善悪の彼岸を出してきてびびった。

  3. @ゼッケン
    言い忘れ。キリスト教世界では役割を固定されているユダが自由になることはないでしょうが、この作品の話者は自分を自由な存在だと主張しています。悪人正機を唱える日本人にしか分からない論理展開だと思っています。

  4. @ゼッケン
    さん。解説を読んでから読み直すとまた味わい深いですね。ありがとうございます。

    この自由な男は「両腕をできる限り左右に開き、おれは人々に身を委ねる」という十字架を連想させる箇所などから、イエスキリストかと思いましたが、ユダだったのですね。

    思えば、キリスト教の悪の設定は一捻りありますよね。ユダは初めから悪人側の人間ではなく、イエスの弟子として始まり悪に変わる。ルシファーも然り。初めからサタンではなく最善の天使が最悪の悪魔に変わりますし。

  5. @たかぼ
    性善説なんでしょうね。神が悪を作るわけなくて、それが罪を犯す(知恵の実を食べたりする)と悪=エラーの烙印を捺される。けど、アダムの原罪は我々に受け継がれ、ヒトは罪人として生まれる。おい、性悪説に変わっとるやないか。洋の東西を問わず、性善説は革命を支持し(孟子、ルソー)、性悪説は統治の理論(荀子、ホッブス)となるところが時代を経てのこの一捻りを生じさせるんでしょうね(キリスト教は最初革命側だったけど、ローマ国教となって統治側になったという経緯)。この二項対立を論理的転回するのが親鸞の悪人正機説だと私は思っているんですが、バカバカ、なんか浮かれてたと我に返るゼッケン。興ざめな解説をしてしまったと落ち込んじゃう。独り言なんで気にしないで。

  6. @ゼッケン
    さん。性善説が革命を支持し、性悪説が統治を支持する、そしてキリスト教は初め性善説の宗教だったのがローマ国教となるにつれ統治のための性悪説を重視するようになってきたとの示唆に富むご指摘ありがとうございました。とても参考になります。

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