品詞の問題

ある、は動詞で
ない、は形容詞

おもしろいっすよね
おもしろくないっすか
在ったら動いて
なかったら形になるなんて

いっぱしのブンガク青年を気取る
ぼくの話を聞きながら
そもそもおかしい問いかけを聞きながら
あなたは笑って
グラスをグビッとやったのだ
華奢な体には圧倒的に濃すぎた
ウィスキーロックを
グビグビッと

そうやねえ、おもしろいねぇ

それからぼくはいつも
会うたびきっとおなじみの
お気に入りの本や映画や
好きだった女の子のことを
あなたに話していたのだろう
もうよくは覚えていないけれど

あなたがあなたとして在った
だからぼくはあなたに出会えて
いっしょにお酒を飲んで
そんなふうに笑って
でも
あなたがもう亡いことを
どんな形にすればいいのか
いつまでたっても分からない

朝が来ても目覚めなかったという
ないことのありようを
聞いたって
いま、ぼくの手の中に
あなたがひとつだけ遺した詩集が
あったって

あなたの年を
もう越えてしまったぼくは
つぶやいてみる

ある、は動詞で
ない、は形容詞

そうやねぇ、おもしろいねぇ

投稿者

兵庫県

コメント

  1. ある、ないの品詞問題の話にへ〜っと思って読んでいたら、どんどん物語性のある内容にグッと引き込まれました。とても素敵な詩ですね。

  2. 存在の有ることと無いことを人間の生と死にあてはめて詠まれたこの詩には深く考えさせられました。

  3. いないあなたがいる。なるほど、不在も存在のひとつの様態に過ぎないってことですね。不在は形の問題に過ぎないと。動詞と存在論。

    >そうやねぇ、おもしろいねぇ

    本当にそうですね。

  4. @あぶくもさま
     ありがとうございます。十九の時に出会って、いろいろと世話になって、とても影響を受けた人でした。今書いている詩も、シナリオも読んでほしかったなぁ、と心から思います。

  5. @たかぼ様
     ありがとうございます。
     どうしてあの人は、今いないのだろう、もう二度と会えないのだろう……
     年を重ねるにつれてそう思うことが多くなっていきます。
     思いだすことは、もしかして残酷なことなのかもしれません。
     それでも、折に触れ思いだしながら、生きて行こうと思います。

  6. @ゼッケン様
     ありがとうございます。
     存在を忘れられたとき、人は二つ目の死を迎えるということを聞いたことがあります。
     もちろん誰もそんなことを証明できるわけでもありません。
     ただボクは、この人に限らず、少なからず縁の在った、会えない人たちのことを忘れずに生きていこうと思っています。そんな自分で在れたらと思っています。

  7. 素晴らしいです!

  8. @那津na2さん
     ありがとうございます。
     鎮魂の詩は、その人の魂に向けて書くのではなく、もどかしいままさまよい続けている自分の魂を鎮めようとするために書くのかもしれません。幾年経とうが鎮められるわけもないのですが。

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