稜線に夜の降る
ひとりの宵の戯れがひらくまでなら瞬く間
熱が落下する感覚を君らは知らず
めくるめく憧憬に追われることを求め
白肌に浮かぶ麗しさなどを古い伊万里に見出す
引き出しの木と鋳物の手が微かに擦れる小ぶりの茶箪笥
古物の市で迎えた三寸の小皿たちの寝所
絢爛な色絵の淵に指を沿わせる
稜花の輪郭をひとまわりするその道で
細い金属音を震わせ
寝静まった居間に追憶を溶かし始める
遺伝子の赤 高貴な青 銅の緑 金の錦
花唐草 松竹梅 鶴と亀 玉の瓔珞
真白な肌に筆を落とし 曲線を自在に
職人になりたかっただろうか
波佐見や有田に生まれたなら
九谷に生まれたなら
絵の具を盛り上げて
白梅なんかの花びらを指の腹で撫で廻したり
古の器を語る店主の手は大胆だ
壊れない際々を扱う鮮やかなやり方で
傷んだ木箱に無造作に在ったのだとか
見込みに歌が書かかれているのだとか
婚礼の時に使ったきりで蔵に眠っていたのだとか
人の手から渡される物語りは美しく
稜花の金が掠れているのも愛おしく
窯傷もふりものも針の穴も可愛らしく
幾つもの宴を知り忘れられていた君らを
幾千も打ち集わせて咲き乱れるのを護りたい
手が触れた刻には全てを移し終えている
稜線に夜の降る 私たちと引き換えに
コメント
皆さまにお知らせが!
というかお誘いが!
ございます!
ぽえ会を見護るもの、たちばなまことです。
お世話になっております。 ゴールデンウィークに、題名を同じくした詩を皆で書きたいと思っています。
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お題『1829』
※二重鉤括弧は含まれず
期間は4/28(金)〜5/7(日)くらいでしょうか那津さん
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前回は『蠍』というお題で大いに盛り上がりました。
是非お気軽にご参加ください☆
わたくし、1829のお題の詩は必ず読んでコメント(感想)書きますね!
1連目から詩の味わい深く、特に言葉の配列に惹きつけられました。その後も絢爛たる言葉が炸裂していきますね。まるで家庭画報の高貴な写真の頁を繰っているような気分になりました。
山の話かと思ったら陶芸、焼物の話でした。そこに焼き付けられた絵の美や刻み込まれた歴史などが文字で具に際立っています。
「壊れない際々を扱う鮮やかなやり方」というところにもドキっとします。
タイトルに呼応する最終連の余韻も素晴らしいですね。
@たかぼ
さん。1連目の意識に気づいてくださり嬉しいです。古物屋が男性だった場合、一見ベージュやグレイのファッションで地味な印象の方が多いです。しかしその場で物語りを綴る様はなんとも色っぽい。
家庭画報とは!大変上品なものに例えてくださるなんて!
@あぶくも
さん。そうなのです。山なのです。ここに出てくるのは磁器なのですが作家さんの陶器が好きで楽しんでいます。器が焼成で変化したさまを景色と呼んでみたり自然を描いたり自然の形を目指したり自然に喩えたり、われわれの遺伝子かっけえって思います。色々と感じてくださりありがとうございます!
無機質である筈の陶器が、艶めかしく美しく表現されて、色彩豊かな古美術の世界に入り込んだようでした。
「白梅なんかの花びらを指の腹で撫で廻したり」
このフレーズが艶っぽく、官能的でいいですね✨
おもしろかったです〜、骨董通りで物語が浮かび上がってくる〜
焼き物は無地のものが好きですが、絵付けされたものでも、時をへると無言に近づくのかと思います。土が焼かれる。そのことがすでになにものかの、語りなのかもしれません。
@渡 ひろこ
さん。艶めかしいとはありがとうございます!作者の下心みたいな何かが滲み出ちゃっているようです。九谷のふっくらしているところ“盛”って言うらしいのですが、手描きで細かく描き込まれていて触ると気持ちいいのです。
@timoleon
さん。ありがとう〜。青山の骨董通りには骨董屋さんいっぱいあるのでしょうか〜。散策してみよ〜。
@坂本達雄
さん。無地ということは素地の良さがひかるものがお好きなのですねー。磁器ならば古いもののほんのりクリームを帯びた肌が好きです。陶器も炻器も絵付けもろくろもたたらも手捻りも何でも手仕事が感じられるものが好きです。自分が居なくなっても、無口になっても、存り続けるってたまりません。
えー
すげーカッコ良いやないかー!
詩人や!
@那津na2
さん。ありがとうございます!
詩人やでー。
物の魅力が伝わる筆力にしびれます。
最終連と最終行の詩の飛躍に脱帽します。拝礼
長い年月をこれからも経ていくだろう器たちと、いずれ尽きるぼくたちの命との対比が何ともせつなく、美しかったです。
そうか、うつわたちは山河と一緒なんだ。
@こしごえ
さん。稜線に夜の降ることがこの詩の基布で、そこを感じてもらえたのが嬉しいです!
@あまね/saku
うつわは山河、お洋服は気象のように捉えています。私たちは生きている内によく感じ、美しいうちに、もしくは生を謳歌できるうちに戯れたりひらいたりしたいのかなあ。
たちまこはインスタをやっております。
エッセイ的なものを書いたので。
https://www.instagram.com/p/CrPjXegJkEf/?igshid=YmMyMTA2M2Y=
器の輪郭が暗闇に溶けていくこと、それはたとえばろうそくの火に照らされて輪郭が揺れていること、を「夜が降る」と形容されているのかなと読みました。そういえばカノーヴァの彫刻などは揺れる燈火で照らして鑑賞されていたそうです。ふと、思い出しました。
@and
さん。むかしの人の日々はろうそくが演出する夜が常で、曖昧な美しさが生活にあったのだと感じます。
カノーヴァ、そうなのですね。現代でも炎に照らされたモノたちは魅力的に映ります。焚火とか。(デートに使えそう)
稜線に夜の降る。タイトルにそそられました。どんな詩なのだろう? 読み進めていくと、陶器の詩。陶器の描写に艶っぽさがありますね。遺伝子の赤 高貴な青 銅の緑 金の錦 花唐草 松竹梅 鶴と亀 玉の瓔珞… そして、最終行で、再び、稜線に夜の降る…。深い余韻が残ります。
@長谷川 忍
さん。
わお。そそられてくださりありがとうございます!タイトルが先に決まり書き込んでいった詩です。
陶磁器はハマっているもののうちの一つです。秘め事の稜線も夜は程よくしてくれます。