記憶

記憶の移り変わりというのは
電車で後ろ向きに座った時の情景に似ている
車窓を流れる建物や景色は
いつも突然飛び込んできて
視界の中で少しずつ少しずつ離れていく

記憶の中での出来事や人の面影も
突然入ってきて少しずつ小さくなっていく
いつも会っている人はこの限りではないが
一二度しか会わない人の面影は時の流れの中で
少しずつ遠ざかっていく

それは仕方のないことだが
微妙に違和感を感じるのは
人は通常後ろ向きには歩かないこと

例えば
ある忘れがたい人と別れなければならない時でも
後ろ向きに歩いて遠ざかる人はまず見かけない
どんなに後ろ髪ひかれても
いざ振り向いて立ち去る時
視界の中のその人は
余韻もへったくれもなく忽然と消え去る

以前ひどく名残惜しい場所から
就職のために離れる時
人影まばらな夜の歩道を後ろ向きに歩いて
電柱にぶつかりそうになり犬に吠えられたことが
私には二度ほどあった

思えば
犬に吠えたてられるくらい
後ろ向きな人間だということなのだろうから
おススメはしないが
人は本来前向きに歩くべきものだからこそ
その殺伐を補う意味合いも含めて
記憶は後ろ向きに歩く人の視界になっていて
忘れがたい人や出来事を残すスペースを保とうとするのかな

投稿者

栃木県

コメント

  1. 1連目の表現に掴まれました。

  2. コメントありがとうございます。詩の投稿を初めて間もないので右も左も分からない状態なのですが、人に読んでもらい反応がいただけるというのは本当にうれしいですね。たかぼさんの詩もぜひ読ませていただきます!

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