砂漠に行った

砂しかなくて、砂ばかりなのだから
頭の中まで砂ばかりになってしまう
けれどこの肉体は水からできているので
革袋の中のたっぷりの水を思うのだ
砂漠に行こうとしたのではない
どこでどう間違えたのか
気が付いたらサハラ行きの飛行機に乗っていた
もう眼も開けられない
砂粒が凶器になるのだ
陽射しがナイフになるのだ
そして夜には
砂の中から女を掘り出している
この女は悲しみのために砂の中にいる
砂を払って、まぶたの上の砂を払って
銀河を見てごらん
悲しみよりも美しい星を
わたしのペニスは砂になってしまったから
役には立たない
そこでだ、駱駝の背に乗るサソリのように
肉体の奥にある水分を絞り出して
わたしの舌の先にある悲しみだけでも
濡らしたいのだ
この女は朝までにはまた砂の中に
もどさなければならない
女の口の中に砂を入れ
女の耳の中にも砂を入れ
オオカミのように眠っていいのだよ
ピラミッドも昔は砂に埋もれていた
いとしいものはみな砂の中に埋めてしまわなければならない
金貨も銀貨もルビーもサファイアも
それではまるで守銭奴ではないか、兄さん
それではおまえ、星のひとつでも入れておこうか
砂漠で死んでしまうのが
夢だったんですね
ラクダも消えて、テントも消えて
わたし一人が月の出を待っている
するとそこに有翼の天使があらわれて言う
月の階段を登って行きなさい
確かに銀色の階段が月へと続いている
それで月には何があるんですか
もちろん月には美しい砂があります
それはどうもありがたい
美しい砂に感謝ですね
ところで念のために聞きたいのですが
美しい砂以外に何がありますか
それについては何も言えない
天使は砂になって崩れ去った。

投稿者

岡山県

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