動画小説『ねこやしき』(海底深層心理編)

動画小説『ねこやしき』(海底深層心理編)

『ねこやしき』~海底深層心理編~
「ねこやしき」の街で殺人者に追いかけられた櫻木は、
命からがら飛びこんだ薬屋で、怪しい大量の薬をもらう。

公園でその薬を飲むと、体がひどく重くなり、眩暈がして目の前の水たまりに倒れこんだ(飛び込んだ)
水たまりは思ったよりも、もっともっと深く、底なしかと思うほどだった・・・・。

誰かが馬をまたがりこちらへやってくる。
手には弓なり矢を射って、それはちょうど私の額の中央に命中した。すると、光の届かない海の中、私は浅く息を繰り返すことができた。
私は泡を引いて横たわり、深い深い海の中を静かに下っていく。

海底に着くと、馬から降りた小面がゆったりとこちらへ近づいてくる。小面の面は時に満開の華のように微笑んでいるように見え、萎えてつまらなくなった枯れ枝のようにも寂しげ、兎角どこか風景のある顔をしていた。

深海を密やかに舞うその姿は不思議と眠気を誘い、私は徐々にその視界を狭めた。

扇子は這うように私の身体の上を移動し始める。それを隅々まで行き渡らせると、小面は緋色の着物の袖から由々しく真っ白い両手の指先を覗かせて、こちらへ指し示すように向けた。

首の辺りにひっそりとした感触がふれたかと思うと、瞬く間に首の後ろ側までピタリと絡まり付いてくる。

親指とひとさしゆびの間合いは冷んやりと気持ちよく、私は目を閉じて永遠をその肌で感じ、至高の時の中でいつまでもこうしていたいと願うのだった。

呼吸する度、肺の中が甘美な溶媒に満たされていき、頭の中は次々と合わさっていく原子記号や方程式のようなものでいっぱいで、半端な答えや割って余りのある数が出るたびにそれを魚たちが次々と食む。

うっすらと目を開け、そのすきまから垣間見た目前に覗くその小面は、うつむきがち影を落として表情を曇らせ、
その面は先ほどのものとはまるで似ても似付かぬほど何ものか迫りくる狂気やものものしい憎悪や退廃的な企みに満ちていた。

それを見た瞬間、私は殺人者の姿から滲み出していたものをまざまざと思い出し、額に刺さった矢を一気に引き抜いた。

途端に息が苦しくなって手前に泡を吐き出すと、小面は後方に仰け反り、そのすきに私は海上を目指して深海の中を昇っていく。

そのとたん、小面はまるで鬼の面のようになり、馬にまたがったかと思うと躍起になって追いかけて来、海底から次々矢を射抜く。

このとき私は心の底から思った。

生きたい、と。

やがて、真っ赤な光や 黄色い光が見え隠れすると、小面の執拗な追跡ははたと止み、どうしたことかと思って下を見ると、急に人が変わったように、再び優雅に海中を舞い始めていた。

私は空を目指して、海上に浮かぶ赤や黄の点々を目前に浮かび上がる・・・。

長編小説『ねこやしき』

猫のように自由気ままに生きたい、と願いながら、
夢を叶えられなかった男が迷い込んだ
不思議な過去の街「ねこやしき」

ねこやしきの住民たちは、
皆どこか猫のように自由気ままで、
楽しく生きることをゆるし、ゆるされていた。

投稿者

静岡県

コメント

  1. 詩に向かっていく情景がとても細やかに描写されていますね。
    (割り算の余りを魚が食むあたりが特に好き)
    人は「死」に直面しない限り「生」をありありと意識することはないのでしょうね。
    後半の祝福のような花火の映像が綺麗でした。

  2. 底まで、底で、戯れたい、と思うのはわがままでしょうか。境を彷徨いながら浮き沈みする、その罪を、いつか、償えるのだろうか。そんなことが浮かびます。(すみません、ちょっと酔ってます(コメントありがとうございます。))

  3. @nonya
    ありがとうございます。ご感想とてもうれしかったです。
    >人は「死」に直面しない限り「生」をありありと意識することはない
    まさにそうなんですよね。「生きる」ということは、とても有難いことなのに、
    当たり前のように息をしていたり、当たり前のように光を浴びていて、本当の「死」についてはあまりわかっていないのかもしれないです。
    この海のシーンは深層心理の底の底にあり、魚たちはその「生きたい」気持ちを気づかせないように散らしている存在なのかもしれないなと感じました。
    この物語は20代のころに見た長い夢を映像化しているものですが、「祝福」という言葉をいただいて、夢から覚めるような喜びをいただいています(感謝)

  4. @ぺけねこ
    ありがとうございます。ほろ酔いながらのご感想とてもうれしかったです。
    >底まで、底で、戯れたい
    わかる。わかりますよ。ちょっと竜宮城のような魅惑的な場所で、怖いけれど離れがたい場所というイメージですので。罪を償うということも乗り越えるということも大変ですけれど、
    いつも帰れる場所、守ってくれる場所、隠れられる場所でもあるような気がするので、あまり長居はできない場所でしょうけれど、いつでも戻っていいような気がします。
    そこでたくさん涙を流したのなら自ずと浮上する力がわいてくるのかもしれないなと思いました(私も酔っているようです^^)

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