グラジオラス

平衡感覚から夏が来て
わずかばかり、等身大のイヌイットが髭を凍らせて
スモークされたチーズの夏が来て
思考実験された暗室の顔から壁がなんとも近い
ほくろから後部座席の破壊された機器が見える
グラジオラスの花たちがおしゃべりする
岩だらけの谷から乳母車が見える場所へ
七曲りの峠の曲がって立つ黒松の久しい日没
転換される空位、次郎坂から松本のあたりまで
朝日の質実直線の目に届く
赤ちゃんの指の仏典を開き
宝蔵する三宝はすでに山影に入る
ところでアイシャ、アイシャはこの凍れる池でスケートをする
きりきりと回転をする
吐く息はアイシャ、アイシャはそのスピードを維持したまま
夏の扉を破り
冬の時間帯へと熊のように
またはエゾリスのようにかけのぼる
送信される原子炉への自爆指令
おぞましい形を放射線が映像とする
エゾガラス、エゾシカ、エゾモモンガ、それらは
雪の結晶形をしたまま
本土への爆撃態勢をこの空に描く
グラジオラスの花があわいいろあいでまねく
喪失の時間帯、都市は消失する、時間帯、
夏の空には桃色の爆撃機が編隊を組む
あざやかに投下される、あざやかな焼夷弾
そぼふる雨の皇居周辺
ランダムに人々は泪をぬぐいつつ
ひらかれた眼にふるしょういだん
さまざまの夢の中に炎があがり
わたしはグラジオラス
そして夏のすべての時間が形成する
ラストタンゴ
ボリビアの
高原地帯
裸体する
八月。

投稿者

岡山県

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