黒門市場

 車道脇から通りへ入った『キリン堂』に
 流れている七十年代フォークソング
 「愛はかげろう」が 喧騒を抜けて来た私の躯に
 気だるく浸透する

 日本橋駅十番出口を出ると降りしきる蝉時雨
 二十年ぶりになるだろうか 訪れた大阪の台所
 押し寄せて来たのは驚くほどの東南アジア系の外国語ばかり

 食べ歩きの観光客目当てな商品の陳列
 店頭に設けられている長机と簡易チェアーで
 ビールの空き缶や汚れたプラ容器が無造作に
 置かれたままの十一時前
 通りは一歩ごと ただよう匂いが変わり

 店員さんの呼び声もパフォーマンス
 鮮魚売場では その売り方の豪快さがまさに「お祭り」

 個人営業店が軒連ねると ふいに現れる
 お洒落な和菓子屋
 北海道物産店や高級珈琲生豆専門店
 肉屋の店先ではホットプレートでホルモンが煮立って
 その近くには真珠のネックレスやオーストリッチの長財布
 進み行けば 風格ある老舗鰹節店が目を引いて
 店舗の並びに まるで感じられない統一性

 散策する家族連れの子供たちが はしゃぐ姿も
 てんやわんやで
 昔より ずっと増していた迫力と活気

 アーケードに吊るされる「黒門」の巨大ちょうちん
 自転車が数台駐輪される道路脇には
 時代の止まっているかの様な
 暮らしの落ち着きがあって

 変わりゆくものと変わらぬものを見詰める
 そこに佇み 私はiPadの写真で二度、
 シャッターを切った
 
 
 

投稿者

滋賀県

コメント

  1. この詩を拝読して臨場感あふれる詩行におもしろみを感じます。
    更に、
    変わりゆくものと変わらぬものを見詰める
    そこに佇み 私はiPadの写真で二度、
    シャッターを切った
    という最終連に、おおっ!、と感動して感じ入りました。すてきです。

  2. @こしごえ
        様へ

     お読みくださり、ご感想のコメントをどうもありがとうございます!(^ ^)ゞ
     このたび、本当に久しぶりで大阪の街を歩きまして、ちょっと連作として
    作品が続きます。
     ぜひ、お読みいただければ大変うれしく思います!m(_ _)m
     実際に、目にしましたものを感じたまま言葉に紡いでみたいと思っています。
    ふふふ…。╰(*´︶`*)╯♪
     

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