朝のシャンソン

 その視線はどこを見るでもなく
 誰を みるでもなく
 そして何に
 留まるでもない

 体になじむポロシャツと
 洗いざらしな作業ズボン姿のおじさん

 きっとシルバー人材センターからの派遣で
 駅構内や周辺を清掃されているのだろう
 集めたゴミの袋を足元に置き
 駅の中央広場、入口付近で立ちつくす

 おじさんは両の手を後ろに組み
 軽く左右に揺さぶる上体でリズム取りながら

  「おはようございまぁす。」
  と
  「行ってらっしゃぁい。」
  の 呼び掛けを繰り返すのだ

 高すぎず低すぎない耳触り良いトーンの
 まるで歌い手の様な すべらかな口調
 どこにも力みの無い
 初老迎えられて日焼けした表情は若々しくて

 おじさんの現れる朝
 心に 流れてくるメロディーのような
 呼びかけへ
 小さな拍手の会釈、向けるのだが

 どこか
 遠い 目をする
 おじさんには届かないのだ

投稿者

滋賀県

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