北の波止場

 のうぜんかずら の咲く港
 電線の鳴る夜
 暗い酒場で音が はね飛んだ

 けばけばしいライトさえ
 薄暗い いやらしささえ
 初めて訪れたのに なつかしい
 酔った女が声を掛けて来た

  「あなた、何処から来たの?ひとり?」
  「そう。私はひとり。」
  「同じ仲間かしら。」
  「そうね。仲間かも知れないわ。こんな所でのんでるなんて。」

  「むかし…この港もよかったの。今はだめ。背中の薄い男ばかりよ。
   あなた、よそへ行った方がいいわ。」
  「でも、こんな港になら人の匂いのしない男がいるかも知れない。
   そう思って来てみたの。」
  「いた?」
  「わからない。」

  「そう。…いつまでたってもわからないわよ。」
  「そうね。」

 時刻む音を数えて その音に
 埋もれた恋の嘆きをみれば
 新月の 大潮のように熱くほとばしる感傷の歌
 酔った女は 泣いて眠った

 そして北陸の
 湿った 夏の夜風は重く、
 空洞になった胸の冷たさを
 汽笛がわずかに たて直すのだった

 

投稿者

滋賀県

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