
島 ―石垣りんさん墓参
九月も終わる
というのに
強い陽光が肌を刺す
苦味となり
喉元でわだかまっている。
急な石段を上がった先に
詩人の墓はあった
すぐ向かいは海が広がっている。
南伊豆、
子浦。
彼女は東京の生まれだが
両親の故郷に葬られたい、と
語っていた。
幼少の頃に亡くなった母
空襲で傷を負った父
父は再婚を繰り返した
異母兄弟を養いつつ
詩人は銀行員を続けた
家の働き手は
彼女ひとり
詩作を
唯一の拠り所にして。
墓には
碑が建っていた。
―姿見の中でじっと見つめる
私 はるかな島
晩年の
穏やかな詩人の眼差しは
この土地で生まれ結ばれた
両親への
憧憬であったのか
自らへの慎みであったのか。
彼女は南伊豆に拘った。
独身のまま、齢を重ねた。
苦味をゆっくり呑み込む
墓前に手を合わせる
眼下の海は
どこまでも碧く
歳月を淡々と湛えていた。
コメント
白っぽい岩肌、ひび割れた堤防、空の色、などなど、作者が見た景色のお裾分けを頂いたような。
詩の言葉たちがしみじみと滋味深く皮膚からしみてゆきます。
@たちばなまこと
たちばなさん、ありがとうございます。石垣りんさんは、好きな詩人です。墓参に訪ねたいと思っていました。海を見下ろす場所にお墓があります。当日は好天に恵まれました。