ベランダ

お隣のベランダで
お葬式が始まっている
空は澄んでいて
ご焼香の良い香りが漂っている
わたしの持っている図書館は
翼が無いのに透明だから
時々午睡をすると
豆腐の表面にも
良い風が吹いた
林檎だけ食べて育った兄は
初めてできた娘に
林檎、と名付けた
他には何も知らなかったから
ずっとそうだったから
だって昨日も無かったじゃないか
参列する子供が泣いて駄々をこねる
無いことも
無くすことも
悲しいことと皆がわかっている
それならばわたしたち
せめて守れ
お坊さんの読経が聞こえる
よく知らないお隣さんを偲んで
目を閉じる

投稿者

コメント

  1. わたしたちは、〈ある〉という仮定、のもとにあるのですが、それはどうしようもなく、あいまいな日常で、ほとんどないようなもの、とも感じられるのですが、聞こえて来るものに、状況の設定に、もしかしたら、〈ある〉のではないかと、思いつつ、やはり、〈ない〉のかも知れないと、思うのです。 さわぐ子供たち、彼等は知っているのかも。

  2. @坂本達雄
    坂本達雄さん、コメントありがとうございます。
    存在のあやふやさ、その輪郭をつくるのは何でしょうか。
    坂本さんがおっしゃる通り、何か、例えば子供たちの騒ぐ声、そういう他のものの彩りや距離、そのようなもので輪郭は浮かび上がって、立体感が認識できるのかもしれないですね。

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